第24章 びゐどろの獣✔
(父上が湯浴み中なのか?)
空は夜空と変わってはいるが、まだ時間は浅い。
槇寿郎が入浴するには早過ぎる。
些細な違和感が増えれば大きな疑問となる。
再びすぐさま踵を返すと、杏寿郎は真っ直ぐに浴場へと向かった。
疑問を抱いたなら答えを見つけ出せばいい。
「…いない」
足を運んだ浴場は、もぬけの殻だった。
使用された様子もない。
となると酒を漁りに台所へ行ったのか。
「おい煉獄」
「不死川?」
浴室の戸を完全に閉め終わる前に、客間へ通したはずの実弥に声をかけられた。
目を向ければ、その手には湯呑が握られている。
茶を千寿郎にでも出してもらったのかと思ったが、すぐにその予想は裏切られた。
「それは…」
実弥の手にした湯呑は、杏寿郎の記憶にもある。煉獄家で使われている湯呑だ。
その湯呑は罅を入れて、底を大きく欠けさせていた。
どう見ても湯呑としてはもう使い物にならない。
「何があった?」
「言うより見る方が早い」
湯呑を実弥が壊したのではなく、壊れるに至る何かがあったのだ。
すぐさまそう判断した杏寿郎が厳しい表情をすれば、実弥は言葉数少なめに顎を引いて先を促した。
「茶でも貰いに行こうと立ち寄った先だァ」
「台所か?」
「日輪刀を忘れんな」
やはり何かがあったのだ。
服の裾をつつく程度だった胸騒ぎが、ざわりと波打つ。
腰に差した得物に手を添えると、杏寿郎は急ぎ足で台所へと向かった。