第24章 びゐどろの獣✔
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「ただいま帰りました!」
「ったく駆け足過ぎんだろォ! どんだけ早く帰りたかったんだよッ」
「鴉達が騒いでいたからな! 鴉が鳴くから帰りましょう!という歌もあるだろう!?」
「それを言うなら鴉と一緒に帰りましょう!だァ!」
「そうか?…そうだったな! 不死川は童謡に詳しいのだな、感心感心!」
「なんだァそのガキに言って聞かせるような言い草はァ。嫌味か」
「!? そんなつもりはないぞ!」
明かりのついていない煉獄家の戸を、騒々しく実弥と共に潜る。
闇へと染めゆく秋の空で、騒ぐ鴉の群に胸騒ぎを覚えたのか。杏寿郎の帰宅の足は、自然と速まっていた。
いつものように快活な声で帰りを告げるも、実弥と玄関内で騒ぐも、おかえりなさいと出迎える蛍達の声は聞こえない。
「人の気配がねェなァ」
「湯浴み中かもしれんな。もしくは料理で手が離せないんだろう。俺は父に一言かけてくる。不死川は客間で休んでいてくれ」
「お言葉に甘えてそうさせてもらうわァ」
鬼や与助を捜すだけでなく、壊した獅子舞の後処理もした。
祭り事の道具を壊してしまったことを悔やんでいた蛍にも、なるべく早く告げたいことだ。
疲れた様子で背を向けひらりと片手を振る実弥を、すまんなと笑って見送るとすぐさま踵を返す。
しかし暗い廊下を端まで進んだところで、杏寿郎は違和感を覚えた。
(不死川の言う通りだ。人の気配がなさ過ぎる)
父、槇寿郎の部屋は屋敷の最奥にある。
その奥まで進んだというのに、蛍と千寿郎の気配を今まで感じられなかったからだ。
広い屋敷でありながら、蛍を迎え入れた日々はいつも明るく賑やかなものだった。
千寿郎も蛍の傍にいると声を上げて笑うことも多かったように記憶している。
もしや先日の虫干しのように、今度は二人で寝落ちているのだろうか。
それはそれで見てみたいと期待を持ちながら、見慣れた襖の前に立った。
「父上──…」
帰り着いたことを報告しようとして、すぐにその声は途切れた。
気配でわかる。
中に人はいない。