第24章 びゐどろの獣✔
例え鬼であっても、こんなにもつぶさに感情を拾い上げてくれる他人はいなかった。
例え杏寿郎が選んだ女性でなかったとしても、千寿郎にとって既に蛍の代えはいないのだ。
「わかりました。手当てをしたら、家に帰ります」
「うん」
「そして、兄上を連れて来ますから」
「杏寿郎を?」
「姉上は、此処で待っていてください。兄上と、必ず迎えに行きます」
例え槇寿郎に変わらず拒否の姿勢を貫かれようとも、杏寿郎がいれば動き出すことはできる。
信頼故の確信があったからこそ、千寿郎は強い声で言い切った。
「必ずです。姉上をひとりぼっちになんてさせません」
小さな少年の両手が、そっと包むように蛍の焼け爛れた手を握る。
爛れた手に、不思議と痛みは感じない。
それ以上に、胸をいっぱいにしてくれる感情で満たされて。
「──…うん」
止めていたはずの涙が、滲みそうになった。
「待ってる」