第24章 びゐどろの獣✔
いつも歯向かえないと言っていた父に抗い、此処まで足を運んでくれたことがどんなに凄いことなのか。
それだけで多少の痛みなどどうでもよくなってしまう。
「…ん。わかった。千くんの言う通りに、する。だから千くんも、約束して」
「? はい」
「手当てを終えたら、おうちに帰ること。急いで戻れば、もしかしたら槇寿郎さんに気付かれないかも、しれない」
「なら姉上も…」
「私は行けない。槇寿郎さんに、気付かれないようにしなきゃいけない、から。千くんと一緒のところを見られたら、千くんまで罰せられるかも、しれない」
「そんな…っ」
「でもね」
顔を離せば、ふるふると頸を横に振る千寿郎が見えた。
それでも痛む口角を引き上げて、蛍は笑う。
「千くん、槇寿郎さんに何も言えないって言ってたけど。私のことを、姉上は姉上だって言ってくれたでしょ。…私も、そう思ってて、いいかな」
どんなに槇寿郎に拒否されても、千寿郎のその言葉があったから心は最後の最後で折れずにいられた。
「どんなに周りに、否定されても。千くんが望んでくれるなら、私は千くんのお姉さんで、いたい」
自分は非力だと嘆く千寿郎にこそ、救われたのだ。
「勿論です。僕の姉上は一人だけですから…っ」
「…うん。私も。こんなに可愛い弟は、世界に一人だけしかいないから」
「可愛いなんて…」
「可愛くて、恰好良いよ。槇寿郎さんに言い返してくれて、ありがとう。槇寿郎さんには悪いけど、あれ、割とすっきりした」
にひりと笑う蛍に、つられて千寿郎の笑みも砕ける。