第24章 びゐどろの獣✔
「兄上に頼るばかりも、嫌で。姉上はきっと許して下さるだろうけど、僕が、許せなくて…っごめんなさい……勝手なことを、しました…」
「っそんなことない」
涙ながらにか細く消えゆく語尾は、傍らに置いた提灯の灯りのようだ。
強い風に吹かれれば呆気なく消えてしまう、そんな儚さがあった。
咄嗟に出た言葉に後悔はない。
蛍は強く頸を横に振ると、焼け爛れた両手を千寿郎へと伸ばした。
「ごめんね、私が間違ってた」
触れることに躊躇はなかった。
断りも要らなかった。
ただただ溢れる感情のまま、目の前の少年を抱きしめた。
「千くんは勝手なんかじゃないよ」
誰かの為にと行動ができる、優しい子だと。そう、槇寿郎にも伝えたことがあるというのに。
情けない自分が許せないと言いながら、その思いは全て蛍へと向けられていた。
それがわからないはずがないのに。
「情けなくなんか、ない。自分のことをちゃんと、見て、自分で判断できる、子だから」
「…姉上…」
「ありがとう。って、一番最初に言わなきゃ、いけなかったのに。ごめんね」
「そんな、こと…」
「ありがとう、千くん」
「…はい」
ずびりと鼻を啜る音が聞こえて、尚のこと抱きしめる腕を強める。
小さな背をゆっくりと擦って、爛れた肌にもほのかに感じる体温を思った。
「あの…姉上、」
「うん?」
「体、痛みませんか…?」
「うん。痛い」
「! は、離してくださいっ」
「やだ」
「ええ…っ」
「身体は痛いけど、それ以上に胸がいっぱい、なの。だから離したく、ない」
「でも…手当てが…」
「千くんがこうして傍にいてくれるだけで、元気が湧いてくるの。どんな薬にも勝るものだから、ここにいてくれなきゃいや」
「っ…」
腕の中でもぞもぞと身動いでいた動きが止まる。
「えっと」「あの」と小さな声で何度も呟いた結果、おずおずと千寿郎の手が遠慮がちに蛍の背へと回された。
「でも…怪我は、怪我です。僕はその為に出て来たんですから…手当てさせてくれなきゃ、いや、です」
抗うような声は羽毛のように優しく、蛍の耳を撫でていくようだ。
つい綻ぶ口元は引き攣ると痛んだが、大したことはなかった。