第24章 びゐどろの獣✔
「恐らく政宗は、兄上を捜していたかと…途中で僕と鉢合わせたから、道案内をしてくれたんです」
「千。連レテク。方ガ、速イ」
「うん。ありがとう、政宗」
「ぃゃ…いつから千なんて呼ぶようになった…偉そうだな…」
「誰ノ! オ陰デ! 助カッタ死ニ損ナイガァ!!」
「それは、まぁ…政宗のお陰だけど…死に損ないて」
「え!? 姉上死にかけたんですか…ッ?」
「いや…まぁ、うん。いや。死にかけてはいないけど、死にそうだなって、へこたれそうになってた、だけ」
馴れ馴れしいというか、偉そうというか。
思わず目の前の鴉に突っ込めば、けたたましく突っ込み返される。
普段なら言い返すところ、今はそんな気力もない。
「あ、喋るのも辛いですよね…っすみません、気が回らなくてっ」
「痛いと言えば…痛いけど。それ以上に、突っ込みたいことが、多過ぎて」
「ひとまず姉上は座ってください。僕は姉上の手当てをしに来たんですっ」
「手当て? そんなこと、しなくても、そのうち治るから…」
「駄目です! いつか治るものだとしても、痛みはしますッ苦しさだってありますッそのまま放置するなんて、絶対に駄目です!」
まるで自分が怪我を負ったかのように、深く眉を下げて唇を噛み締める。
何かに耐えるような千寿郎の顔に、それ以上否定の言葉は吐けなかった。
大人しく言われるがまま腰を下ろせば、背負っていた風呂敷を解きながら千寿郎もその場に腰を落ち着ける。
ほのかな提灯の灯りだけでは、薄暗く視界は悪い。
それでも鬼の目なら、千寿郎が持ってきたものをつぶさに見て取れた。
包帯にガーゼに、軟膏に清潔な布。
本当に手当ての為だけに、急いで荷造りしてきたのだろう。
救急箱の中身をそのまま持ち出したかのような千寿郎の荷物を、まじまじと見渡した。
「傍に川があってよかった。姉上、先に傷口を洗いましょう」
「……千くん」
「無理して喋らなくていいですよ。姉上は安静にして…」
「私の手当てに、向かうことなんて、槇寿郎さんが許す、はずないよね」
「……」
「…もしかして…黙って、此処へ来たの…?」
勢いに任されていたが、よくよく考えれば一番の問題はそこだ。