第24章 びゐどろの獣✔
(…だめだ…)
考えれば考える程、悪い方にしか転ばない。
更に落ち込むように頭を下げる、蛍の耳に。
──ザッ
誰ともわからない足音が届いた。
「っ!」
届いた音は足音だけではなかった。
はっと顔を上げた蛍の視界に、漆黒の羽根が舞う。
「政宗…ッ」
「カァ!」
ばさばさと羽音を立てて蛍の下へと舞い降りたのは、待ち侘びていた政宗だ。
唇の痛みも構わず呼べば、定位置のようにふんぞり返って座っていた頭には停まらなかった。
代わりに蛍の足元に下り立ち、再びカァと鳴く。
「よかった、何処に行ったかと…っ」
「──ぁ」
政宗との再会を喜ぶのも束の間。坂の上から聞こえた声に、危機感が走る。
見上げた坂の上では、小さな光が揺れていた。
人間だろうか。
政宗が連れて来たのならば、鬼ではないはずだ。
本来なら安堵するところ、槇寿郎とのこともあり簡単には安心できなかった。
反射的に橋の下へと退く蛍を追いかけるように、光が坂の上から揺れ落ちてくる。
「姉上…ッ!」
転がるように坂を駆け下りてきたのは、提灯を手にした千寿郎だった。
「せ…ん、くん…?」
「よかった、ご無事でしたか…ッあれから怪我はッ? 火傷は…っまだ、酷そうですね…ッ」
走って来たのだろう。蛍の傍へと駆け寄った千寿郎は、喜び勇んで捲し立てるも息は上がっている。
その様子にも驚いたが、何よりこの場に千寿郎がいることが不思議でならない。
「…なんで…」
唖然とどうにかそれだけ呟けば、千寿郎はぴしりと姿勢を正して蛍を見上げた。
「姉上を、捜しに来ました…っ」
走った所為で赤く染まった顔は、高揚しているようにも見える。
千寿郎の小さな頭にふわりと停まる政宗が、ふんぞり返る様はまるで自分を見ろと言っているかのようだ。
「政宗が、道案内をしてくれたんです。そうでないと僕も姉上を見つけられませんでした」
「政宗、千くんを捜しに、行ってたの…?」
「…多分、違うと思います」
「え?」