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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔


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(……戻って来ない…)


 すっかり日も暮れ、鬼が自由に活動できる頃合いとなった。
 それでも蛍は橋の下に身を置いたまま、どうにか体を起こした姿勢で座り込んでいた。

 陽に焼かれた皮膚は触れると余計に痛む為、極力触らないようにとじっとしたまま。
 何度も橋の下から空を見上げたが、見知った鴉は飛んで来なかった。

 何処へ行ってしまったのだろうか。
 下手に動けないこういう時こそ、鎹鴉の力が必要だというのに。
 口周りも焼け爛れている為、安易に呼べもしない。

 動くことも呼ぶこともできずに、蛍は一人、途方に暮れていた。


(どうしよう…まさか政宗にまで見限られたなんてこと…ない、よね…)


 煉獄家を追い出された時に、防具を運んでついて来てくれた政宗だ。
 それはないとすぐに思い直せたが、絶対だとは思い切れない。

 少しずつ、半歩ずつでも歩み寄ってくれていた槇寿郎に、あそこまで強く否定されたからだろうか。
 他者の思いは絶対ではないと、心底思い知らされた。


(このまま政宗が戻って来なかったら…本当に、孤立無援になってしまう、かな…)


 自然と頭が下がる。

 手入れのされていない剥き出しの土や不揃いの芝を途方もなく見つめ続けて、どれ程経っただろうか。
 時間にすればそれ程長くはないかもしれない。
 しかし痛みを伴う身体が、体感時間を狂わせる。

 体を完治させる為にも動き回れない。
 ただじっと橋の下に身を隠していると、余計なことをあれこれと考えてしまう。

 槇寿郎は元柱。
 耀哉と連絡を取り、鬼である蛍の始末を希望するかもしれない。
 そうなれば、杏寿郎の意見も通らないかもしれない。
 今までは仲間だと思っていた鬼殺隊の足音が、死への知らせとなるかもしれない。

 その時、自分はどうなるのだろう。

 槇寿郎に言われた通り、杏寿郎と千寿郎の前から姿を消して、好機を伺い逃亡生活を続けることが吉なのか。
 そもそも好機などあるのだろうか。
 鬼である自分が人と共に生きていただけ、奇跡であったというのに。

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