第24章 びゐどろの獣✔
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「──…」
「どうしたァ煉獄。何か見つけたか」
「……ぃゃ」
「?」
茜色から群青色へと染まりつつある秋の空。
不意に顔を上げた杏寿郎は、じっと虚空を見つめ続けていた。
鬼か、はたまた与助か。
捜していた者を見つけたのかと問いかけた実弥は、普段らしからぬ杏寿郎の横顔に眉を顰めた。
先程まで浮かべていた口元の笑みは消えている。
じっと何もない空間を見続けている瞳から、感情は読み取れない。
「すまん。話を中断した」
やがて視線を下げると、なんでもないと頸を振る。
「蛍と千寿郎は、無事帰り着けたかと思ってな」
「この時間帯ならとっくに帰り着いてるだろォ。帰宅途中に何かありゃあ、柚霧の鎹鴉が伝えに来てるはずだ」
「そうだな…そうだ。いやはや、千寿郎のこととなるとどうにも過保護過ぎるところがあると、自分でもわかっているのだが…」
蛍は鬼として、また継子として間近で見てきた実力がある為、信頼している。
しかしどうにも千寿郎のこととなると胸騒ぎがするようだ。
呆れたように呟く実弥に、杏寿郎は苦笑混じりに「面目ない」と呟いた。
千寿郎に構い過ぎる性格であることは自覚している。
ただどうにも、この胸騒ぎはいつも帰省の際に感じるようなものではないように思えた。
だから振り返ってしまったのか。
「それにしても柱二人がかりで捜しても、目ぼしい痕跡一つ見つけられないとは! 不甲斐なし!!」
「オイそれは言うんじゃねェ」
空気を切り替えるように、腕組みをした杏寿郎が清々しい顔で唸る。
蛍と千寿郎を先に帰宅させ、二人で祭事に残ったはいいものの。
俊足で一般隊士の約三分の一の時間で周囲を観察して回ったが、何も見つけられなかった。
「そもそも神隠しってもんにこの村はかかってる可能性があんだろォ。ならその原因を潰さねェ限り、見つけようにも見つけられねェかもしれねェだろが」
「確かに、不死川の言う通りだ」
それなら尚更、元凶となっているものを見つけ出さねばならない。