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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



 杏寿郎だけではないのだ。
 蛍を失うことを恐ろしく感じるのは。

 初めて見た。
 陽に体を炙られ、命を燃やされる様を。
 〝鬼〟という生き物が、本当に人間の理(ことわり)から外れてしまった末路を。

 それでも槇寿郎が怒鳴り付けたように、蛍が人間を餌とする生き物には思えなかった。
 寧ろ、体を焼かれて尚も千寿郎を思う蛍に、胸は詰まり目元は滲んだ。

 蛍への思いは、何一つ揺れていない。


「…失礼、します」


 それが答えだ。

 今一度、小さな拳を握る。
 槇寿郎に一礼して背を向けると、千寿郎は自室へと駆け出した。






























「──は…ッ」


 一歩足を進めるだけで、ぜぃぜぃと息が掠れる。
 とうとうその場にうずくまるように、蛍は両手をついた。

 影鬼を使って煉獄家を後にしたが、影を纏えば太陽光から逃れられる訳ではない。
 そもそも血鬼術さえまともに操れない程、体力は消耗していた。
 それでも自力で夕日の下を歩いて来られたのは、常に身に付けている竹笠と手袋で防備していたからだ。


「ガァッ!」

「ん…あり、がと…政宗…」


 傍で激しく鳴くは、蛍について来た鎹鴉の政宗だった。
 状況を理解していた政宗がすぐさま紫外線防止用具を持ち出してくれた為、陽に焼かれずに済んだのだ。


「礼! 違ウ! 止マルナ! 歩ケ!」

「ぅ…わかって、るんだけ…ど…」


 捲し立てる政宗の言い分は十分過ぎる程理解している。
 このままでは、じりじりと太陽光の下で力を消耗して意識を失ってしまう。

 そうなれば、果たしてこの鬼の身体はどうなるのか。
 想像もしたくない。


「力が…入らなく、て…」


 煉獄家を出て虚勢を張る必要がなくなれば、途端に体は負傷を自覚したかのように痛みを増した。
 一歩進むだけで筋肉は動く。
 焼け爛れた細胞が引き延ばされ、縮められ、激痛を生んだ。

 もう一歩も進む力は残っていない。
 行き倒れるように、道端でうつ伏せになる蛍は動かなくなってしまった。

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