第24章 びゐどろの獣✔
体の傷は時が経てば治ると千寿郎は言ったが、全てがそうではない。
人間は鬼のような再生力は持ち合わせていない。
一生の傷跡になることだってあるのだ。
殴り付けられた千寿郎の顔の痣も、下手をすれば。
(それだけは駄目)
鬼とは違って換えが利かない。
だからこそ守らなければならないのだ。
「そんな…駄目です…っ姉上っ」
「大丈、夫。私は、簡単に死んだり…しない、から…」
頸を横に振る千寿郎の項に、そっと手を添える。
耳元に焦げた唇を寄せて、千寿郎にだけ聞こえるように囁いた。
「だから…千くんは、自分のことを見て。守って、いて。杏寿郎が戻って来たら…きっと、なんとか、なる」
「でも…っ」
「千くんの体は…一つしか、ないの。私みたいに、やり直しは利かない、から」
「…っ」
「千寿郎! いい加減その鬼から離れないのなら──」
「大丈夫です」
先に手を離したのは蛍だった。
千寿郎から距離を取るように、覚束ない足取りで腰を上げる。
「ご迷惑、ばかりおかけして…すみません、でした。此処へ来てからの行動は、全て、私の意志です…杏寿郎さんと、千寿郎さんを…責めないであげて、下さい」
後退るようにして身を退くと、頭を下げる。
ざんばらに切られた髪が、はらりと肌に影を落とした。
「私には、姉しかいませんでした…短い間、でしたが…初めて、家族というものを、持てたような気がします…ありがとう、ございました」
「…とんだ戯言だ。鬼が人間と家族になれる訳がない。喰われる恐れを抱えて共に暮らすなど、そんなもの家族と言えるのか」
激情はなけれど、淡々と突き付けられる言葉に蛍はふらつく足場をどうにか一人で堪えた。
拳を強く握って、吐き出したくなる思いを呑み込む。
「っ…杏、寿郎さんが戻られたら…一つだけ、お伝え…願えますか…」
「ならん。出ていけと言ったはずだ」
「お伝えは、槇寿郎さんの意思に任せます…ただ、言葉だけ、残させて頂けたら…出ていきます、から」
「ならんッ! 下手な希望など持つな! そんなものを持つからつけ上がるんだ…! 鬼と人間は馴れ合えん!! さっさと消え失せろッ!!」
「…っ」