第24章 びゐどろの獣✔
ずっと道を逸れて歩いていた。
自分は鬼だからと、いつも理由をつけて。
そこに初めて「鬼であっても」と意思を込められるようになったのだ。
鬼でも人でもない、彩千代蛍そのものを愛してくれた彼のお陰で。
ようやく前を向いて歩き出せたというのに。
ここで逃げてしまっては、一歩ずつ踏みしめ手にしてきたものを全て失ってしまう。
「もう…やめて、ください…ッ」
生半可な思いではないからこそ、曲げることができない。
蛍のその心を揺らがせたのは、少年の泣き声だった。
「近付くなと言っただろう…!」
「これ以上、姉上を傷付けないでください!」
「せん、く…」
無し崩すように、千寿郎が蛍の前に膝をつく。
殴られ赤く腫れた頬と目元を蛍へと向けて、ぼろぼろと大粒の涙を零した。
「体の傷は、時が経てば治ります…っでも今姉上の心を切り付けている傷は、簡単には治らないんです…!」
さめざめと泣き続ける声は、悲痛そのものだった。
「もう…傷付けないでください…ッ」
姉を思い心を痛めているだけではない。
千寿郎自身が、痛みを受けているかのようだ。
「傷跡は、残るんです…っずっと」
心を切り付けられる痛みを、知っている。
一度も目を合わせてはくれないのに、暴言ばかりが向けられる。
頭ごなしに否定され、跳ね付けられる。
その言葉の刃は、千寿郎も知っていた。
「千…くん…」
震える体を尚縮ませ泣き続ける千寿郎に、蛍の声が詰まる。
胸に亀裂が入り、軋むように痛んだ。
幼い少年に、こんなことを諭すように吐き出させるなど。
「鬼の前で情けない声を出すなッ千寿郎ッ!!」
「ッ!」
つられて沈む蛍の意識が、槇寿郎の怒号により引き戻される。
千寿郎の背後で膨らむ圧を感じて、咄嗟に両腕を伸ばした。
「!? 何を…!」
「ッわかりました!」
千寿郎の体を抱きしめて、更に荒立てようとする槇寿郎を強く見上げる。
「出ていきます…ッ此処から…っだからもう、千くんには何もしないで下さい…!」
「!? 姉…っ」
身動ぐ体を押さえるようにして、千寿郎を強く抱く。