第24章 びゐどろの獣✔
「今すぐ俺の目の前から消えろ。でなければ今度こそ然るべき得物でお前の頸を斬る」
「っ…」
「立ち去れ。そして二度と杏寿郎と千寿郎の前に姿を見せるな」
「……それ、は」
「お前に言い分などない。聞けないなら殺すまでだ」
無情に突き付けられる現実に、蛍は身を震わせた。
頸を縦になど振れない。振りたくない。
初めて生きたいと思えた、蛍にとっての導(しるべ)そのものなのだ。
その彼の手を、離すことなど。
「わ…私、の…生きる意味、そのもの…なのです…杏寿郎、さんの、隣に…いる、ことが…」
「餌としての保険か」
「っ違い、ます…!」
辿々しく枯れていた蛍の声が、初めて主張をした。
それでも見下ろす槇寿郎の表情は、何一つ変わらない。
「此処へ来て、から…槇寿郎さんに、お話しした言葉は…全て、私の本音です…っ本気で、家族になりたくて」
「鬼と人間が共に生きることなどできる訳がない。甘い夢を語るな」
「っ夢じゃ、ないです…杏寿郎さんとも…お館様とも、思いを、交わして」
「だからなんだと言うのだ!」
「っ」
必死に伝えようとした。
想いを、心を。
人間だと思われていた時は、視線は合わなくとも声を遮られなどはしなかった。
初めての強い拒絶に、びくりと蛍の体が強張る。
「杏寿郎がお前を認めたからなんだ。鬼殺隊がお前を迎え入れたからなんだ。此処は俺の家だ、鬼に敷居を跨がせる気はない…!」
「…っ」
「自分は死なないだと…鬼ならば当然だ! 病や怪我で死んでいく人間など、貴様らには塵あくたのようなものだろう! 馬鹿にして…ッふざけるな!!」
「ち…違…」
「煩いッ!! 今すぐ出ていけ!!」
ようやく上がる蛍の目が、爛れた皮膚を押し上げ見開く。
突き刺さる言葉の刃に、眼球が僅かに涙で滲んだ。
力なく頸を横に振るも、槇寿郎は耳を貸さない。
「っそれ、だけは…どうか…お願い、します…」
それでも出ていく選択肢は、蛍の中にはなかった。
震える指先を揃えて頼み込む。