第24章 びゐどろの獣✔
はっとすると、左顔を覆う包帯を空いた手で千切るように乱暴に引き剥がす。
傷跡を覆っていたガーゼが落ちれば、露わになる痛々しい熱傷。
鬼ならば完治していも可笑しくはないのに、残り続けている。
(ならば、これは──)
一体何故か。
「ッ…?」
火傷だと言っていた。
皮膚を焼いたような跡だ。
(焼く…?)
不意に槇寿郎の視線が台所の隅に向く。
徐に踏み出すと、蛍の頸を掴んだまま引き摺った。
苦しそうに歪んでいた蛍の目が見開く。
強い力で引き摺られた体は、呆気なくその場へと晒された。
「ぎッぅウ…!!」
咄嗟に両腕で顔を覆う。
目元は覆えたが、遮れなかった口元が、耳が、交差させた両腕が焼かれた。
槇寿郎が、蛍の体を夕日が差し込む窓の前へ引き摺り出したのだ。
高温の焼き印を押し付けたかのような皮膚を焼く音と、蛍のつんざくような悲鳴が響く。
ボッと炎のような赤い気が舞い上がった。
「姉上…ッ! 父上やめてください!! 姉上が死んでしまいますッ!!」
「ッ煩い!!」
「ぁう…ッ!」
蒼褪めた千寿郎が、弾けるように槇寿郎に縋り付く。
小さな体は太い腕に打ち払われ、簡単に床へと薙ぎ倒された。
細く儚い千寿郎の悲鳴に、蛍の肌がざわついた。
「──!?」
ぞくりと、悪寒が槇寿郎の肌を刺激する。
頸を掴んだままの蛍の体から、視界を覆う程の影が噴き出したのだ。
荒々しい影は頸を掴む手を払い、舞い上がる炎を押し潰し、渦を巻きながら台所一面を覆い尽くす。
鬼が生む影。
これこそが二人が口にしていた〝影鬼〟だと瞬時に理解した。
「…ぜ、…くん」
「!?…ぁ」
倒れ込んだ際に、強かに頬を打ち付けた。
打ち払われた肩と打ち付けた顔の痛みに耐えながら、なんとか体を起こす千寿郎の周りを黒々しい影が覆う。
その見た目とは異なり、影は千寿郎の体を支えるように優しく寄り添い持ち上げた。
傍らには術者が立っていた。
ぽたりと赤黒い血を滴らせた口元から、濁った声が漏れる。
「姉、上…っ」
その様を目にした千寿郎の顔が、引き攣り歪んだ。