第24章 びゐどろの獣✔
「ち…違うんですっ姉上は正式な兄上の継子で、鬼殺隊の一員ですッ」
「質問の答えが違う。蛍さんが血鬼術を使うとはどういう意味だと訊いている」
「それは…っ」
「千くん」
必死に言葉を回そうとするも、機転の利いた言葉は出てこない。
言葉を詰まらせる千寿郎の前に一歩踏み出した蛍が、やんわりと優しい声で呼びかけた。
「私が話すから。大丈夫」
「姉上…」
遅かれ早かれ、いずれは話さなければならなかったことだ。
問題ないと頸を振って、蛍は槇寿郎へと向き直った。
まるで初めて会った時のような威圧を感じる。
あの時は座っていたが、今は目の前に立っている。
それだけで蛍の頭から食らわんとするかのように、圧が覆い被さるように増す。
杏寿郎よりも上背のある者だ。
そんなことはわかっていたのに、今更ながら巨躯のような威圧を感じた。
ごくりと生唾を呑み込む。
「私は、鬼です」
下手な言い訳をする気はなかった。
杏寿郎は折を見て話すと言っていたが、勘付かれてしまったのならば潔く素性を話すべきだ。
元柱である槇寿郎に、付け焼き刃の誤魔化しなど効きはしないだろう。
「ですが千寿郎さんが告げて下さった通り、炎柱の継子として努めているのも本当です」
杏寿郎も千寿郎も、鬼である自分を認めてくれた。
ならば父親である槇寿郎にも、その望みはきっとある。
「お伝えするのが遅くなってしまい申し訳──」
ふ、と視界が暗くなる。
目の前に迫りくる大きな掌。
つい先程、熱傷をぎこちなくも優しく手当てしてくれた掌だ。
一瞬退こうとしたが、自分のすぐ後ろには千寿郎がいる。
咄嗟に身動きのできなかった蛍の頸を、その手ががしりと鷲掴んだ。
「んぐッ」
「姉上!」
「鬼だと…ッ」
手当てをした時とは程遠い力で、無造作に顎を掴む。
そうして片手で握り上げたまま、槇寿郎は鋭い双眸を蛍の全身に向けた。
苦しげに眉を寄せた瞳も、頸を掴まれた手を握ってくる爪も、呻く口元も。どこにも鬼の証拠である縦に割れた眼孔や、爪や牙はない。