第24章 びゐどろの獣✔
影踏み鬼となれば、子供の遊びの一種だ。
別に驚くような単語ではなかったが、先程から聞いていた二人の会話に不信感を覚える。
酒に弱い者、飲めない者がいるのはわかる。
しかし何故無理に酒を料理に混ぜる必要があるのか。
飲めないのなら、通常の料理を口にすればいいものを。
蛍と千寿郎を観察するように、槇寿郎は気を静めて見つめた。
「凄いですね、姉上の術は」
「折角千くんが作った料理を、食べるフリするのは悪い気しかしないけど…あ、でもまた取り出せるから。しまった料理は、後で返しに行くね」
「ふふ。便利な収納袋みたいです」
「血鬼術をそんな扱いしてる鬼なんて、きっといないだろうね…」
ふっと遠い目で呟く蛍に、千寿郎は頬を和らげ尚笑った。
「私は大好きですよ。姉上の血鬼術。私と兄上の約束を、叶えてくれた術ですから」
念願叶い、兄と共に鑑賞した能楽の羽衣は、伝統的な正規のものではない。
それでも千寿郎にとっては一生忘れられない、特別な思い出となった。
世界でただ一人、蛍だけが見せることのできた羽衣の舞なのだから。
「あんなに思いやりのある血鬼術、私は知りません。見た記憶を影に憶えさせるというのも凄いです」
「そう、かな…私も上手く使えてる感じはしないんだけど、千くんと杏寿郎の為にどうにかしたいって思いがひたすら強かったから…なんか、影が導いてくれた感じ」
「影が……そういえば、あの魚のような影も…」
「ああ、うん。あれも私が想像した訳じゃなくて」
「血鬼術、だと」
ぎしりと、木目の床が僅かに軋む。
はっと会話を止めた蛍と千寿郎の視界に、台所の入口に立つ槇寿郎が映り込んだ。
「ち…父上…ッ!?」
「し、ん…っ」
「血鬼術と、今、そう言ったな」
驚きの余りに、十分な返しもできていない。
二人の反応を待つ前に、槇寿郎は険しい顔で更に一歩踏み出した。
「一体どういう意味だ。蛍さんが、血鬼術を使うというのは」