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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



「さっきはああ言いましたが、これは好機かもしれませんね」

「好機? なんの?」

「父上がほんの少しでも姉上に心を傾けてくれているなら、今のうちに距離が縮められるかもしれないと」

「…心、傾けてくれていたかなぁ…」

「私の意見なんかも普段は聞かない人なんです。でも、姉上の手当てはしてくれた。大きな一歩だと思います」

「一歩か……よし、じゃあ杏寿郎作戦いってみようかな」

「兄上作戦?」

「杏寿郎が言ってたの。槇寿郎さんとの距離を縮める為に、一緒に食事をしたり入浴をするのはどうだろうって」

「に、入浴ですか…」

「私の場合は、槇寿郎さんの背中を流すことかな。でも流石にいきなりやるには敷居が高いから、先に食事の方に挑んでみようかと」

「そう、ですね…食事なら」

「ずばり、"槇寿郎さんの部屋で食事作戦"!」

「そのままですね」

「わかり易いと言って下さい」


 びしりと人差し指を立てて告げる蛍の目は、既にやる気に満ち満ちていた。


「皆で押しかけるとまたさっきみたいに逃げられてしまいそうだし。ここは私か、千くん辺りが妥当かなと」

「兄上は?」

「杏寿郎は食事中に大声でうまい連呼しちゃうから、槇寿郎さんの堪忍袋が先に切れそう」

「た、確かに…」

「不死川は煉獄家とは関係ないから、こんなこと任せられないし」

「私と姉上の二人で行くのは駄目なんですか?」

「うーん、相手は一人だからなぁ。こっちも一人で行くのが定石かな。槇寿郎さんの為にも、人数は少ない方が心の負担も軽いと思う」

「心の負担、ですか…」


 千寿郎にとっては、情緒の不安定さはありながらも厳しい父でしかなかった。
 元炎柱の称号も持っているのだ。
 その槇寿郎の心を、こうも繊細に捉えようとするなど。


「なら、私は姉上が適任だと思います」


 自分では縮められなかった距離を、彼女なら埋めてくれるのではないだろうか。
 迷うこともなく、千寿郎の中で答えは一択だった。

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