第24章 びゐどろの獣✔
「心配くらい…するだろう。軽い怪我じゃないんだ」
「…はい」
「鬼殺隊だろうがなんだろうが、顔に火傷跡なんて残すもんじゃない」
「はい」
「それに……杏寿郎も…哀しむんじゃ、ないのか」
「……」
きゅ、と包帯の端と端で結び目を作る。
手を離しても崩れない様に、ようやく張っていた槇寿郎の肩が下がる。
「?」
そこで蛍の返事がないことに気付いた。
包帯ばかり見ていた目線を表情に移し変えれば、言葉を失う。
「そう、ですね。気を付けます」
言葉は反省を示すものだというのに、告げる声は柔らかい。
畳の折り目を見つめながら、緩く綻ぶ口元。
その目は無機物しか見ていないというのに、情愛に満ち満ちていた。
誰を思い浮かべ、何を感じているのか。
その表情だけでありありと伝わってくる。
幸福をそのまま形にしたかのような、愛おしさの募る顔。
その時槇寿郎は、何故あの時最後まで蛍を目で追ってしまったのか。自分の行動を理解することができた。
(あの時見た杏寿郎の顔が、俺に似ていたからじゃない)
煉獄家の玄関先で瑠火の墓参りに赴く息子達と、外から来た鬼殺隊の女性。
隊士でありながら剣士ではない。その蛍をただ一人の女性として見つめる杏寿郎を、昔の自分と重ねたからではない。
杏寿郎へと向ける瞳。告げる声。歩み寄る歩幅。その全てが。
一瞬だけ見えた愛情に満ちた横顔が、亡き瑠火を思い出させたからだ。
知っている。
見たことがある。
その眼で、表情(かお)で、受け入れてくれたのはただ一人。
『槇寿郎さん』
自分だけだ。
(──…瑠火…)
そんな最愛のひとと同じ瞳で、蛍が微笑んでいたからだ。