第24章 びゐどろの獣✔
患部を消毒した後は、手持ちの軟膏を塗り込んだ。
といっても酷い熱傷だ。些細な動作でも痛みはしないかと、恐る恐る槇寿郎の指が慎重に触れる。
その気配が伝わっているのか、はたまた蛍も同じ心持ちなのか。緊張した様子で体を微動だにさせない。
手当てをする者も、される者もぎこちない。
この場に杏寿郎がいたなら「俺が代わりましょう!」と即座に名乗り出たに違いない。
「…痛みはないか」
「大丈夫、です…」
しかし今此処に、一声で空気をぶち破る現炎柱はいない。
どうにか塗り終えたことにほっと息をつくと、槇寿郎は大きめのガーゼを手に取った。
「うちには痛みを和らげる薬しかない。後は医者に診てもらいなさい」
「これくらい、なら…その……胡蝶、」
「胡蝶?」
「…蟲柱の胡蝶しのぶ様に、調薬をしてもらえばすぐに治ると、思います」
目の下だけを隠すようには、ガーゼで覆えない。
仕方なしにと左目も合わせて覆うと、固定する為にと次に手にしたのは包帯。
「胡蝶……ああ、蝶屋敷の。確かにあの家柄の者は医療に長けていたが、鎹鴉を送るにしても時間がかかる。この村にも腕の良い医者はいる。場所は後で伝えるから、明日にでも杏寿郎に連れて行かせよう」
「…すみません」
「もう謝らなくていい。俺も…多少、言い過ぎた」
「そんなことは。その…嬉しかった、です」
「?」
「ぁ、ぃぇ。構って欲しくて怪我を放ってた訳じゃ、ないんですが…まさか、そんなふうに心配してもらえるなんて。思ってなかった、から…」
左目はガーゼで覆われ固定された。
そう、と右目だけを開いてみれば、目の前で固まる槇寿郎が見えた。
「痛み、本当に和らぎました。槇寿郎さんのお陰です。ありがとうございます」
自然と頭を下げれば、巻いていた途中の包帯がはらりと揺れ落ちる。
「あっ」
「っまだ動くんじゃない」
「す、すみませんっ」
はっとしたのは蛍だけではなかった。
我に返った槇寿郎も慌てて手を伸ばす。
どこまで力を入れていいのやら、迷うように巻き直しながらゴホンと咳払いをした。