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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



「目は瞑っているように」

「は…はい」


 向かいに腰を下ろす槇寿郎に、座布団の上で正座した蛍の背筋がしゃんと伸びる。
 邪魔にならないようにと片手で髪を押さえ、目を瞑る。
 そうして晒された蛍の顔を改めて見ると、槇寿郎の顔は険しさを増した。


(赤黒い…焦げ付いたような跡だ。水脹れになる暇もなく、皮下組織が破壊されている。これでは痛みを感じない訳だ)


 炎の呼吸は、本物の炎を日輪刀から生み出す訳ではない。
 それでもその呼吸により斬られた鬼の身体は、まるで灼熱の炎に焼き尽くされたかのような跡を見せることも多かった。
 故に熱傷の症状は、人よりも多少は詳しい。
 だからこそ槇寿郎の顔も険しさを増したのだ。

 軽傷ではない。
 これでは跡が残ってしまうだろう。


「何故こんな状態で放っていたんだ。今すぐ医者に見せるべき怪我だぞ」

「す、すみません…でも私、人より体は頑丈な方で。治りも早いんです」

「放っておいて治る怪我じゃない。治療をしても、跡を消せるかどうか…杏寿郎も千寿郎も、これを見て何故医者の所にと思わないんだ。蛍さん、貴女も危機感が足りない」

「…すみません…」


 自分は鬼なのだから、そもそも医者など必要ない。
 それを杏寿郎も千寿郎も知っているだけだ。

 とは言えるはずもなく。
 しゅんと身を縮ませる蛍に、槇寿郎はつきたくなる溜息をぐっと呑み込んだ。

 忠告をただ続けていても何も進まない。
 そっと、蛍の頬の側面を包むように掌で触れる。


「動かないように」

「…はい」


 極々一般家庭にある医療道具だけで、事足りるはずがない。
 それでもとにかく手当てはしなければと、消毒液を綿に沁み込ませると緊張した面持ちで、槇寿郎はそっと患部に触れた。

 ぴくりと微かに蛍の睫毛が震えたが、それだけだ。
 黙って抵抗の一つも見せない蛍を見るところ、確かに体は丈夫なのかもしれない。

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