第24章 びゐどろの獣✔
部屋に戻ろうとすれば、蛍と千寿郎がいた。
故に廊下の角で二人が去るまでと待っていた槇寿郎だったが、どうにも蛍は答えを貰えるまで去るつもりはないらしい。
そう悟ったからこそ、仕方なく声をかけたのだ。
「あの…じゃあ、先程のお話も…」
「ああ。だが私は、祭りに行く気は──」
その話は敢えて触れないようにしていたが、こうも誘われ続けるならはっきりと断るしかない。
蛍の隣で襖を開けて、頸を横に振ろうとした。
槇寿郎のその目が、蛍を見て止まる。
「その傷は?」
「え? ぁ、」
一瞬何を問われたのか、蛍の気が遅れた。
目元の火傷は未だ完治していない。
見えない箇所だから、つい忘れてしまっていた。
「その、お祭りの最中に、誤って火傷をしてしまって」
「何故そんなところを…杏寿郎がいながら」
「いえ。私から原因を作ったようなものなので…杏寿郎さんのお陰で、これだけで済みました。痛みもほぼありませんし、すぐに治ります」
「すぐに、と言える程の傷跡ではないだろう。ちゃんと冷やしたのか?」
「はい。杏寿郎さんが冷やして下さいました」
「その後は、放ったらかしか」
「ぃ、いいえっ杏寿郎さんは鬼の痕跡かもしれないものを、探す為に町中に残りまして…」
険しくなる槇寿郎の顔に、慌てて蛍の頭が下がる。
火傷を隠すように俯く蛍に、それでも槇寿郎の目は鮮明に記憶していた。
皮膚が爛れるほど焼かれていたのだ。
軽い火傷ではない。
「…来なさい」
「え?」
「いいから」
「え、えっと…」
開けていた襖を再び閉じる。
廊下を歩き出す槇寿郎に、戸惑う蛍が踏み出せずにいると腕を掴まれた。
「痛みがないのは、痛覚が麻痺しているからだ。軽くはない、重い怪我だからそうなる。冷やすだけで放置していいはずがない」
「し、槇寿郎さん…」
「鬼殺隊はどうにも怪我を軽く見る者が多い。特に女性の顔に、火傷など残しておくものではないだろう」
強制的に引かれる腕に、もたもたと蛍もついていく。
腕を引く力は有無を言わさないが、前を向いたまま案じる槇寿郎の声に棘はない。
強張っていたはずの体から、自然と力は抜けていた。