第24章 びゐどろの獣✔
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「槇寿郎さん、只今帰りました。蛍です。…その、千寿郎さんも一緒です」
「千寿郎です。神幸祭、楽しかったですよ。ぜひ父上にも感じて欲しかったです」
「杏寿郎さんと千寿郎さんが、神輿渡御に参加しまして──」
蛍が真っ先にと立ち寄ったのは、槇寿郎の処だった。
襖を遠慮がちに叩いて声をかける。
本来はいの一番に、杏寿郎が行っていることだ。
だが今此処に、現在の煉獄家の大黒柱となる彼はいない。
だからこそ自分がと、赴いた結果だった。
神幸祭で経験したことを告げながら、これも報告しておかなければと謎の獅子舞の話もした。
しかし薄い襖一枚隔てた向こう側からは、返事の一つもない。
(やっぱり駄目かぁ…)
しゅんと落ちる蛍の肩に、千寿郎の手が触れる。
「姉上…いつものことですから」
「千くん…」
「告げるべきことは告げました。いきましょう」
気遣うように笑いかける千寿郎こそ、父の温もりを一番感じるべき年頃だというのに。
「半纏も着替えたいし」と苦笑混じりに付け加える千寿郎を見つめて、蛍は静かに頸を横に振った。
「千くんは、先に着替えに行ってて。私、もう少し話していくから」
「ですが…」
「大丈夫。すぐに追いかける」
「…わかりました。余りしつこくすると、父上も気性を荒立てるかもしれません。お気をつけて」
「り、了解」
千寿郎の小声の忠告を胸に刻んで、ちらちらと心配そうに振り返る少年を見送る。
誰もいなくなった廊下は、不気味な程静かだ。
そう感じてしまうのは元炎柱の圧を知っているからか。
(──よし、)
緊張気味に深呼吸をすると、蛍は再び襖へと向き直った。