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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



「当然ですよ。姉上の綺麗なお顔に傷なんてずっと残せませんから」

「わあ、綺麗だなんて。優しいなぁ千くんは」

「私、本当のことを言ってますよ?」

「うん。私の義弟は、本当に出来た義弟だと思います」

「…姉上、自分の身形のこととなると偶に凄く無頓着ですよね…」

「現実を知っていると言って。自分の顔面偏差値くらいわかってるから」

「っ…姉上は綺麗です…!」

「…せん、くん…」

「その顔! そうやってわざと恥じらわないでください…!」

「え待って本当にきゅんときただけだけど。ぜひもう一回言って」


「随分と賑やかなことですわね」


 戯れのように弾む二人の会話。
 それを遮ったのは、凛とした女性の声だった。

 足を止めた蛍と千寿郎の目に、着物姿の女が映る。
 秋寒くなってきた夕刻。
 上品な江戸小紋(えどこもん)の長羽織を着た、伊武静子の姿だった。


「すみません、騒がしくして…っ。こんにちは静子さん」

「此処は屋外です。わたくしに謝る必要はありませんわ」


 ぺこりと頭を下げる蛍に、静かに一礼した静子の目が千寿郎へと移る。


「昼時の神輿渡御、拝見しておりました。見事な導き手でしたわね。千寿郎さん」

「ありがとうございます。奥方様も、神幸祭を観にいらしていたんですね」

「ええ、まぁ…」

「もしかして、何か思い出したりしたんですか?」


 いつもはきはきと持論を口にしていた静子が、どうにも歯切りが悪い。
 迷いながらこの場に立っているような姿に、気付けば蛍は一歩踏み出していた。

 食い入るような目で見てくる蛍を、静子は以前のように一蹴はしなかった。
 ただ静かに見返すその眼差しに、はっとしたのは蛍の方だ。


「す、すみません。また勝手に決めつけるようなことを…」

「何故、そこまで言い切れるのです」

「…え?」

「貴女以外、誰も知らないことなのでしょう? 例え色彩を見分ける目があったとしても、師である杏寿郎さんも知らないことを、何故貴女は信じきれるのですか」

「…何故って…」


 その時感じた己の心を、信じたからだ。
 そう言葉にするのは簡単だが、それだけでは思いの強さは伝わらない。

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