第6章 柱たちとお泊まり会✔
義勇の姿を視界の端に、杏寿郎もまた腕組みをしたまま胡座を直す。
目線の先は布団の小山を作っている蛍だ。
怪談話の時も就寝の時も、蛍は常に何かしら気を張っていたように見えた。
どんな関わり方をしようとも鬼は鬼。
そして周りにいるのはその鬼の頸を狩る者達だ。
当然と言えば当然なのかもしれない。
それでも蛍には本当の意味での休息を取って欲しいと願った。
稽古だからではない。
例え束の間のひと時でも、誰にも怯えることなく眠れるのならば。
自分がその為の囲いになってもいいと思えたのだ。
(弱き者を守るため…か)
それが己の責務だと思ったからなのだろうか。
しかし厠の帰りが遅い蛍を義勇が追った時、そこには続けなかった。
杏寿郎に歯止めをかけたのは、昼間天元に向けられた助言だ。
『強い言葉が必要な時もあれば、触れない方が良い時もある。今は後者だ、そっとしとけ』
いつもなら迷うことなく足を向け、強い声をかけてやれただろう。
それができなかったのは果たして天元の助言の所為だけなのだろうか。
己の体を喰らって涙する蛍を、初めて腕に抱いた時もそうだった。
どう接してやればいいのか。どうすれば泣きやませることができるのか。
蜜璃に助言を貰うまで珍しくも悩んでしまったのだ。
下手なことをして、更に傷付けてしまいはしないかと。
(…らしくもないな)
そんな弱気に至る自身に驚いたが、不思議と落胆はしなかった。
今は手の届くところで気兼ねなく眠りに落ちている。
そんな蛍の息遣いを耳にしているだけで不思議な満足感に満ちる。
背を向けた義勇から一定の呼吸音が聞こえる。
彼も寝たのか、果たして。
ふ、と口元に柔い笑みを浮かべると杏寿郎もようやく闇に灯す炎の双眸を閉じた。
答えの出ない思考を回し続けるよりも、この不思議な充足感に浸っていたくて。
鬼と人とが共に在る、本来ならば異質な空間。
しかし其処に漂う空気は穏やかなものだった。