第6章 柱たちとお泊まり会✔
義勇の羽織と、軽い二枚の羽毛布団。
それらに包まれていれば柱二人の気配も然程感じられない。
二人の気配断ちが上手いのか、はたまた自分が気にならないだけか。蛍自身も定かではなかったが、目を瞑れば心身共に疲労していた為に自然と意識は薄れていった。
責罰されているかのように感じた姉の夢。
夢だったかどうかもわからないが、それ以降意識を微睡みに落とすことに躊躇があった。
また姉に微笑みながら責められたら、と。
しかし見えない二人分の温かみに包まれて眠りに落ちる中、蛍の中からその不安はすとんと抜け落ちていた。
ただ単に忘れていただけかもしれない。
それでも確かに、それは蛍にとって初めての休息となった。
「すぅ…」
(…寝たか)
(寝たな…)
潜り込んでいる為に姿は見えないが、こんもりと膨らんだ布団の中から微かだが寝息が聞こえる。
互いに目を合わせて、声もなく義勇と杏寿郎は小鬼の就寝を悟った。
義勇がくんと匂いを嗅げば蛍が流した血の匂いはしない。
これなら朝起きた柱達に井戸での出来事は見破られないだろう。
ただ。
「…気付いていたのか」
「なんの話だ?」
柱は誰も洞察力が高い。
この炎柱も漏れずに高い観察眼を持っている。
蛍の自傷に気付いていたのか。問えば、さらりと問いで返された。
底の見えない黒い眼と、強い金輪の双眸が重なる。
一呼吸。沈黙を作り見ていた義勇が先に目線を逸らした。
「ならいい」
気付いていようが気付いていなかろうが杏寿郎が取った行動は恐らく変わらなかっただろう。
これ以上のやり取りは不毛だと早々見切りをつけた。
(…岩柱を口止めするのを忘れていたな…)
その場面に出くわした柱は他には行冥だけだ。
ふとそんな思いが過ぎったが、寡黙なあの男なら必要時以外でわざわざ吐露もするまい。
そう思い至り自身も休息の為に立てた片膝に頬杖をつく。
共に同じ布団に入っていた時は、朝まで起きて監視するつもりだった。
しかしすぅすぅと幼子のような寝息を立てるこの鬼からは脅威は何も感じない。
規則正しい寝息を耳にしながら、自然と義勇もゆっくりと目を伏せていた。