第24章 びゐどろの獣✔
(義勇さんの時とは大違いだもんね…蜜璃ちゃんの時とかも)
義勇に対しては、常に敵意剥き出しな実弥。
こと蜜璃に対しても、ぶっきらぼうというか素っ気なさが増す。
小芭内が蜜璃に好意を持つが故に、ぎこちなくなるのとは違う。
しのぶと対話する時はそうでもないところを見ると、蜜璃のような女性は苦手なのかもしれない。
対して、行冥や小芭内には普段の棘がなくなる。
行冥にははっきりと尊敬の意を見せている実弥。小芭内とは、性格上合うのだろう。
だとしたら杏寿郎はどうだろうか。
勇壮活発な杏寿郎は、声も勇ましく、よく天元に煩いと言われる始末。
態度もはっきりしており、良いものは良い、悪いものは悪いと言える。
余りにも個が強い為、実弥の堪忍袋に触れそうなところ不思議と衝突はしていないのだ。
杏寿郎が純粋に不死川実弥という人物を、尊敬しているからだろうか。
煩いと一蹴せず、そこに傾けるだけの耳を実弥が持っているからだろうか。
理由は不明だが、肌は合うのか。蛍という鬼が関わらなければ、交わす言葉に冷たさはなかった。
(って言うと、私が喧嘩させてるみたいで気が引けるけど…)
実弥と義勇が、鬼である自分を巡りぶつかる様はよく見かけていた。
故に杏寿郎とも、衝突することはよくあった。
「ならどっちが先に手掛かりを見つけるか、だなァ」
「承知した! 陽が落ちる前には合流しよう!」
しかし今は、その衝突も見受けられない。
蛍という鬼を家族として迎え入れた杏寿郎に、実弥は噛み付かなかったのだ。
「……進んで、いるのかな…」
「はい?」
「ううん。なんでもないよ、千くん」
逆上せ上がるまで風呂場で話し込んでいた二人。
詳細は知らないが、激しい口論のようなものは聞こえなかった。
自分と杏寿郎が数多の壁を乗り越え歩んできたように。
実弥もまた、僅かにでも自分という鬼との距離を測ってくれているのなら。
(玄弥くんとも、向き合えるかもしれないのに)
その可能性を、諦めたくはないと思った。