第24章 びゐどろの獣✔
与助を己の手で見つけ出したい思いも強かったが、それ以上に千寿郎を傷付けたくはないと思った。
「…わかった」
顔は暗いがはっきりと頷く蛍に、杏寿郎の表情が穏やかなものへと変わる。
「千寿郎も、すまん。祭りの途中で」
「いいえ、十分楽しかったです! それに命に代えられるものはありませんから。姉上のことは、私が責任を持って連れて帰ります」
「うむ。千寿郎に任せた」
「あれ、私が千くんを守って帰るはずじゃ…」
「はははっどちらもだな。二人共、俺の大切な家族だ。まだ明るいが用心して帰ってくれ」
伸びた杏寿郎の手が千寿郎の肩も掴んだかと思えば、途端に二人を抱き寄せる。
「わっ…ンぷ」
「ぁ、兄上?」
「千寿郎、家の戸締りをしっかり頼む。蛍、帰ったら自身の体の治癒に専念してくれ。いいな?」
「は…はいっ任せてください」
「うん。杏寿郎も怪我しないようにね。危険な目に合ったら、そこの風柱を囮にしていいから」
「オイ」
ぎゅうっと強く抱擁をする杏寿郎に、応えるように蛍と千寿郎も背に手を添える。
とんとん、と鼓動の音に合わせて柔く撫でる。
その手を下ろして身を離すと、蛍は眉を下げて笑った。
「嘘だよ。不死川も気を付けて。──師範を、お願いします」
ただ一時の別れであるのに大袈裟な、とは実弥も思えなかった。
鬼殺隊であれば誰もが知っている。
いつなんどき、命を落とすかなど誰にもわからない。
そしてその死は、常に身近にあるのだ。
深々と頭を下げる炎柱の継子。
その姿を前にしては、悪態の一つも付けやしない。
「コイツが足を引っ張らなけりゃなァ」
「むぅ! 確かに君の俊足は目を見張るものだが、俺もついて行けるぞ!」
「へェ。じゃあ久々に競ってみるか?」
「いいだろう!」
挑発的に笑う実弥は、何処となく楽しそうだ。
時折二人が並んでいるところを鬼殺隊本部でも見たことはあったが、仲は良い方だと蛍も感じていた。