第24章 びゐどろの獣✔
「っ」
「痛むな。すまん」
「ぅ、ううん…」
「だが少しでも冷やしておくことが先決だ」
「放っておいても、そのうち治るし…大丈」
「ぶという言葉は今は不要だと言っただろう」
「う。」
「第一、治るにしては治癒がいつもより遅く見受けられるが」
「日光でできた火傷は、他の怪我より治りが遅いみたいで…」
「ならば尚更」
皮膚が爛れた蛍の左目の下。
そこに濡らしたハンカチを当てたまま、杏寿郎は溜息を零した。
「言っただろう。体の怪我は、心の怪我と同じなんだ。本来ならば一瞬で治るものなどない。せめて痛みを感じる間は、心に蓋をしないでくれ」
「……うん」
鬼の体は、都合のいいものではない。
心と身体の速度がちぐはくな、なんとも不便なものだと語った杏寿郎の言葉を思い出す。
そうすると自然と体の力が抜けた。
目線を下げて、ゆるりと息をつく。
「ありがとう、杏寿郎」
「当然のことをしているだけだがな」
群衆を避け、人気のない村はずれへと足を向けた。
小さな六地蔵が並ぶ石段の隅に蛍を座らせ、目の前で屈む杏寿郎が下から顔を覗き込む。
今は竹笠で守られているものの、一瞬の隙に浴びた太陽光は蛍の肌を焼いた。
柱の実力を持つ杏寿郎の反射反応は速く、蛍の肌にも陽光が当たったことを感じさせなかった程だ。
それでもその刹那の隙間に太陽光は、蛍の皮膚を赤黒く盛り上げ焼け爛れさせた。
その頬は見るからに痛々しく、杏寿郎の眉尻は下がったままだ。
「でも…ごめんね。獅子舞のことも」
「気にするな。致し方ない理由があったんだ。持ち主である寺の住職も、話せばきっと理解して下さる」
「そ、そうかな…あんまり信じて貰えなさそうな理由だと思うけど…」
「ではその時は、修理代を払えばいい。方法はいくらでもあるんだ。そう気に病むな」
しょんぼりと肩を落とす蛍とは裏腹に、杏寿郎の受け答えは常に明るい。
しかしそこから先は、不意に口元の笑みを消した。
「それよりも問題は、蛍が聞いた〝声〟だ」