第24章 びゐどろの獣✔
「本当に、鬼と言われたんですか?」
「千くん」
「兄上、その手のものを。冷やし直します」
「うむ、助かる!」
傍の小川で新しいハンカチを冷やしていた千寿郎が、絞り切ったそれを差し出す。
再び患部に当てられる冷たいものに、歯を噛み締めながら蛍は頷いた。
「確かに、鬼って言われたの」
「じゃあなんだァ。この獅子舞がお前を鬼だと見抜いて食らい付いてきたってことかよ」
千寿郎の傍らについていた実弥の手には、半壊した獅子舞の頭。
蛍の隣の石段に置けば、ぴくりと反応を示し逃げ腰になる。
「なんにも出ねェよ」と告げて、実弥は獅子舞の頭を拳でこつりと軽く叩いた。
「調べたってなんも出てこねェ。コイツはただの木材だ」
「あの、鏡は?」
「ただの鏡だなァ。きな臭ェ感じはするが…鬼の禍々しさは感じねェ」
「不死川がそう言うのなら、鬼が造り出した物ではないんだろう。となると、蛍が聞いた声は…」
「空耳じゃねェのか?」
「そんなわけ」
「なら聞いちゃならねェ声だなァ」
「なにその聞いたら駄目な声って」
「…成程…」
「あ待って杏寿郎何その悟ったような優しい顔。なんか嫌な」
「蛍はどうにも、そういう類のものに好かれる性質だからな…」
「あーやめてそういうこと言うの! 決めつけ反対! 本当に声は聞こえたけどお化けなんて私は認めない!!」
「俺は一言もお化けなどと言ってないぞ?」
「言ってるようなものだから! その比喩もその顔も!」
「姉上、あんまり騒ぐと傷口が…っ」
「そうだな、上手く冷やせないから静かにしてくれ」
「杏寿郎が言うそれ」
「俺も四六時中大声を出している訳じゃないぞ…」
どうにも話は要領をつかめない。
それでも心霊だとは認めたくない蛍が不服とばかりに頬を膨らませれば、こらこらと杏寿郎が苦笑混じりに嗜んだ。
「わかった、一先ず蛍の言う〝声〟の出所を探ろう。鬼の仕業ではない保証もない」
「もしかしたら松平が噛んでる可能性もあるしなァ」
「それは松平与助のことか?」
「あっちょっと…っ」
与助を見たことは黙っているはずだ。
そう目で訴える蛍に構うことなく、実弥は淡々と告げた。