第24章 びゐどろの獣✔
「姉上、動きませんね…」
「むぅ…よもや中の人と話でもしているのだろうか…」
「中の人言うんじゃねェ」
中腰の状態で、獅子舞に頭を食われた蛍はぴくりとも動かない。
何故か獅子舞も膠着(こうちゃく)状態のまま。千寿郎達は不思議そうに見守った。
「あれだろォ。獅子舞ってのは、悪払いする獣だろ? こいつの本性にでも気付いて食おうとしてんじゃねェのかァ」
「本性って…鬼ってことですか?」
「不死川……君、そんな冗談を言うこともあるんだな…」
「っ別にいいだろ人の発言にいちゃもん付けんじゃねェ!」
まじまじと真面目な顔で見てくる煉獄兄弟。
兄のその言葉に思わず実弥の頬が僅かに染まる。
祭り事なのだ。
一つや二つ、発言に興を加えても許されるだろう。
「いや、文句は付けていない! 君も神幸祭を楽しんでくれているようで嬉しいんだ!」
「別にそんなんじゃ…」
「だが蛍は悪鬼ではない! 悪払いされる筋合いはないな!」
「思いっきり文句垂れてんじゃねェか」
外で賑わう各々の会話。
それは獅子舞の頭越しに蛍にも伝わっていた。
伝わっては、いたのだが。
「…っ」
外部から獅子舞の顔に当てた両手に、じわりと汗が滲む。
目の前は真っ暗闇。
いるはずの人間の輪郭さえも捉えられない。
なのにはっきりと聴こえるのだ。
零れ落とすような、その声だけ。
「おに。おに。おに。おに。おに。おに」
淡々と、ただ一つの単語だけを紡いでいた。
まるで蛍の正体を知っているかのように。
(頭、動かない…っ)
ひゅくりと息を呑む。
咄嗟に頭を抜き取ろうとしても、がちりと蛍の頸を咥え込んだ牙はびくともしなかった。
冷や汗が背筋を駆ける。
四肢を捥がれようとも、下半身を切断されようとも、鬼ならば再生できる。
しかし頸は急所だ。
あるべきもので切断されてしまえば、鬼も呆気なく命を落とす。
もしこの頸に食い込んでいる金色の牙が、日輪刀と同じものであれば。