第24章 びゐどろの獣✔
(でもこんなにがっつり咥え込まれたら、中にいる人と目が合っちゃうんじゃ…)
千寿郎は、頭部をがぷりと齧られただけだった。
すっぽりと頭を丸ごと食われてはいない。
中の人を見てしまうのは如何なものか。
見ないように努めようとしても、顔は固定されている為に真っ直ぐ前を向いてしまっているのだ。
抗うことはできない。
暗闇に目が慣れてしまう前にと、咄嗟に蛍は目を瞑った。
視界は暗闇のまま。
訪れたのは静寂だ。
(も、もしかして敢えて沈黙してくれてるのかな…)
だとしたら下手に動かない方がいいか。
獅子舞が口を離すのを待つ為に、蛍も大人しく体の力を抜いた。
「──"おに"」
ぽつんと、取り落とすような声が聞こえた。
「ぇ…」
思わず声が漏れてしまう。
聞き間違いではなかろうか。
今、確かに。
(…鬼?)
そう聞こえたような。