第24章 びゐどろの獣✔
二人がかりで踊っていた獅子舞とは違い、一人の人間が操っているそれは器用に小回りを利かせながら、目の前に来る人間の頭に次々と食らい付いていく。
「え、何あれ。頭、噛まれてるけど」
「獅子舞は、頭部を噛むことでその者についた邪気を食べる、という風習もあるんだ」
「成程…」
「何処から何処まで厄除けってことだなァ…ってオイ。こっちに来んぞ」
「特に子供は狙われるからな!」
「えっわ、私ですかっ?」
がぱがぱと口を開閉させながら、頭を上げては下げ、一頭の獅子舞が千寿郎へと近付いてくる。
おたおたと慌てる千寿郎の背を、杏寿郎が笑顔で押し出した。
「兄上っ?」
「無病息災、健康祈願だ! 受けるといい!」
「え、えっと…わっ」
千寿郎の目の前まで来た獅子舞が、頸を傾げたかと思えば、がぱりと大きな口を開け焔色の頭に齧り付いた。
噛り付くと言っても、その行為は優しい。
甘噛みのような仕草を見せたかと思えば、すんなりと離れていく。
「これで千寿郎も健やかな成長を遂げられるな!」
「び…吃驚した…」
頭を押さえてほっと息つく千寿郎も、予想よりも優しい噛み付きに安堵したらしい。
微笑ましく笑っていれば、ちょんと蛍の背を何かがつついた。
「ん?──うわっ」
振り返れば、目の前には巨大な獅子の顔。
ぎょろりと剥いた金色の目玉に、金色の牙。
真っ赤な肌に、白い鬣を靡かせる。
間近での迫力は段違いだ。
思わず千寿郎のように逃げ腰になってしまう蛍に、がぱりと獅子舞が口を開ける。
「あっ」
「む?」
「オイ笠外れたぞォ」
身構える暇もなかった。
笠ごと食らい付くことはできないと、獅子舞も悟っていたのだろう。下から覗き込むようにして、蛍の顔ごと頭を食らったのだ。
反動で外れた竹笠が、ぱさりと地面に落ちる。
「姉上、大丈夫ですか…っ?」
『ん、うん。大丈夫』
外から届く千寿郎の声に、安心させるようにひらひらと片手を振る。
頭はすっかり獅子舞の口の中。
そこなら太陽光も差し込まない。