第24章 びゐどろの獣✔
「あ、千くん。いたいた…って、それ?」
「お祭りの記念に、買って帰ろうと思って。母上のお墓に飾りたいんです」
「そっか…優しいね、千くん」
「選んでくれたのは不死川様なんですよ」
「そうなの?」
「不死川が?」
「…訊かれたから答えただけだァ」
蛍達と合流を果たせば、すぐに千寿郎の手にした花束に目を止められた。
白に青が混じる花弁は小さく、幾つも花を咲かせている。
「随分と愛らしい花だな!」
「リンドウです」
「その花なら知ってたってだけだ」
リンドウは山野草の一種。
目にしたことのある花だったからと、素っ気なく応える実弥に反して煉獄兄弟はほわほわと柔い笑みを交わし合った。
「(そうだ)瑠火さんにお花買っていくなら、槇寿郎さんにも何か──」
思い出したように蛍が呟く。
同時にドドン!と打ち鳴らす急な太鼓の音頭に、気を取られた。
「? あれは…」
「確か…獅子舞の奉納だな!」
「ししまい?」
杏寿郎の言葉に、今一度一層賑やかな場所に目を向ける。
其処には沢山の人だかりができており、近付かなければ肝心の獅子舞は見えなかった。
赤に青、緑に黒。
人混みを進み見てみれば、色鮮やかな四頭の獅子舞が、軽やかに太鼓や笛の音に合わせて舞い踊っている。
獅子を模した頭を先頭の人間が被り、唐草模様の胴幕(どうまく)に隠れる。
同じく胴幕に入り込んだ二番手の人間が、後ろ足を見立てて踏み鳴らす。
息ぴったりに行われる舞は、まるで本当に一頭の獅子が踊っているかのようだ。
「私、獅子舞って初めて見たかも…っ頭、思ったより大きいんだね」
「私もこんな間近で見たのは初めてです…っ」
興奮気味に観賞に浸る蛍と千寿郎を、杏寿郎も笑顔で見守った。
「獅子舞は、魔払いや疫病退治など厄払いを願い舞う風習が昔からある。我が村の神幸祭でも、田畑の豊作や健康祈願で行われるんだ」
「七福神と同じですね。さながら幸せを招く獣でしょうか」
「うむ、千寿郎の言う通りだ!」
「へぇ…あれ、なんか別の獅子舞も出てきたよ? さっきより小さい…」
広間の中心で踊る獅子舞とは別に、一回り小さい獅子舞が観衆の中を紛れ始めた。