第6章 柱たちとお泊まり会✔
「一度体の大半を失っただろう。今もまだ完治はしていない。この場の誰よりも休息が必要なのは彩千代少女のはずだ」
「そんな、こと…おにだし」
「鬼であっても。訓練ならば皆等しく平等であらねばならない」
まごつきながらも返す蛍の意見にやんわりと被せて、杏寿郎は頸を横に振った。
「俺の寝床は甘えになると言ったな。俺の隣なら休息になるということだ。ならば彩千代少女が眠れるまで俺が寝床を作ろう」
有無を言わさない強さではない。
しかし優しく諭すような呼び掛けに蛍は何も言えなかった。
申し訳ないとか、迷惑になるだろうとか。そんな負の感情よりも、胸の奥を柔く締め付けるよくわからない感情を覚えて。
「俺はこの休息稽古の実施者だ。君は誰よりも今、休息が必要だと感じたからそうする。これ以上の異論は認めさせないぞ。彩千代少女」
異論など。そんなものはないと頸を僅かに横に振れば、ふ、と杏寿郎の表情が安堵の笑顔へと変わった。
ぽふりと、もう一度小さな頭を撫で付けた掌が離れる。
「冨岡も異論ないな?」
「…彩千代がそれでいいなら」
満面の笑みで振り返る杏寿郎に、空気のように沈黙を作っていた義勇が溜息を零す。
「ただ」と、ぼそりと告げると膝にかけていた己の布団を掴んだ。
「こうすればもっと広く使えるだろう」
ふわりと蛍に二重にかけて、一歩義勇も歩み寄る。
柱二人の寄り添う姿には蛍も一瞬気圧された。
「で、でもそしたらぎゆうさんも」
「俺は他を向いている。気にせず寝ろ」
杏寿郎とは違い、素っ気なく告げる義勇は早々横を向いてしまった。
そんな安易なものでもないと思ったが、確かに感情の見えない義勇の視線が外れれば構える力も減る。
何も聞くまいとする義勇の姿勢に、蛍は杏寿郎に助けを求めた。
しかし返されたのは苦笑混じりの笑顔だけだ。
これ以上は何も言っても無駄だと悟り、仕方なしにと二人分の布団の中に潜り込んだ。