第3章 浮世にふたり
どうあっても私が辿る道は"死"しかないらしい。
でも死ねば…私も姉さんの処へ、逝けるのだろうか。
『じゃあ…ひとつ、だけ…頼み…が、ある…』
いや、きっと逝けないだろう。
私が逝く先は、きっと地獄だ。
生者には黄泉の国なんてものがあるのかは、一生わからない。
わからないけれど、私は姉さんと同じ処へは、きっと逝けない。
『ね…さんを…陽の…下、に…埋葬…して、欲しい…私には、できな…い』
何故自分は生きているのか。
何故人の血肉を求めるのか。
何故陽の下に出られないのか。
何も知らないはずなのに、全て知っていた。
それはきっと私を鬼に変えた"鬼の始祖"の力なんだろう。
『…わかった。約束しよう』
出会って間もない見ず知らずの男だったけど、その言葉は信用できた。
だってこの男から伝わる色は、曇りがなかったから。
『…あり…がとう…』
礼を言えば、男の眉間に皺が寄った。
怪訝な顔をして探るように見てくる。
やがて構えていた刀を下ろすと、男の足が壊れた扉の敷居を跨いだ。
これで、姉さんを冷たく悲しいこのあばら家に置き去りにしなくて済む。
『だがまだ質問に答えていない』
僅かな安堵も束の間、ちきりと頸に添えられる鋭い刃。
さっき戸を跨いだと思ったのに、いつ距離を詰めたのか。
見下ろし静かに問い質してくる男に、余りにも一瞬のことで冷や汗が肌を伝った。
『わ…わから、ない』
この男が真に求めているのは、死にかけていた私に声を掛けてきたあの男のことだ。
鬼の始祖。
全ての始まりの鬼であり、絶対的な存在。
知らないはずなのに知っていた。
彼の名は──
『むざ、ん…という、名前…しか』
鬼舞辻 無惨(きぶつじ むざん)。