第24章 びゐどろの獣✔
「……不死川様」
「あ?」
「私の兄上は、いつも帰省の度に沢山のお土産を持って帰ってきてくれるんです」
「?」
「荷物になる為に不要だと前に伝えたことがあるのですが、無理な話だと即答されてしまって…兄曰く、自分の為にやっているのだと」
何を選んだら、千寿郎は喜んでくれるのか。
これを渡したら、どんな顔をしてくれるのか。
思いを馳せながら選ぶそんな時間が楽しくて止められないのだと、笑顔で兄は告げてきた。
「兄上のその楽しむ様を私は見たことがありませんが、想像はできます。…不死川様も同じような顔をしていました」
「ンな訳…っ」
ない、と再び否定しようとした。
しかし先程の千寿郎の狼狽えを思い出して、ぐっと言葉を呑み込む。
「不死川様がいいなと思えたら、それでいいんじゃないでしょうか。そこに思いが入っていれば…頂けた人は、絶対に嬉しいと思います」
「だって自分がそうだから」と笑う千寿郎に、実弥は眉を顰めるも押し黙ったままだった。
同じ兄である杏寿郎の気持ちは汲み取ることができるが、弟の気持ちはわからない。
千寿郎の方が、寄り添っているのかもしれない。
玄弥の心に。
玄弥に何か祭りの記念品を渡したかった訳ではない。
ただ喜ぶ顔は見たいと思ってしまった。
特徴的な八重歯を見せて笑う、幼い頃の笑顔しか自分は知らないのだ。
鬼殺隊に身を置いた今の玄弥が、どんな顔で笑うのか。
自分の前で見せてくれなくてもいい。
ただ、知りたいと思った。
そもそも盆栽の趣味も、岩柱である行冥から教わったものだと蛍は話していた。
行冥は、実弥が尊敬している数少ない人物の一人だ。
彼に贈るという形で渡せば、自然と玄弥の所に回り回るのではなかろうか。
「……」
手にした盆栽鉢を、今一度見下ろす。
何度か迷った挙句、露店の店主に足を向ける実弥に千寿郎も顔を綻ばせた。