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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



 様々な種類の花が並ぶ露店には、花以外のものも品出しされていた。

 水やり用のジョウロ。
 土を耕す為のスコップ。
 肥料や植木鉢まである始末。

 園芸に興味はなくても、昆虫飼育が趣味である実弥。
 その用途に使える物もあるのだから、思わず前のめりに興味を示してしまう。


「不死川様はどんな色がお好きですか?」

「……」

「…不死川様?」


 同じく花を選んでいた千寿郎が、何気なく問いかける。
 返事のない様子に振り返れば、実弥はとある物を熱心に見つめていた。


「それは…お椀、ですか?」

「鉢だァ」

「ああ、鉢植え」


 実弥が熱心に見ていたのは、千寿郎の言う通りお椀型の鉢植えだった。
 両手をお椀状にして乗せられる程の、小ぢんまりとした鉢。
 薄い灰色から下がるにつれて濃く変色している鉢は、信楽焼(しがらきやき)と呼ばれる日本六古窯(にほんろっこよう)の一つである。

 ちらほらと表面に小さな白い粒が見える為、まるで粉雪が舞っているかのようにも見える。
 上品でありながら、主役の花を惹き立てる名脇役だ。


(なんで鉢植えなんだろう…?)


 墓参りに鉢植えは要らない。
 必要性のないものを見ている実弥に頸を傾げていれば、傷だらけの手が徐にその鉢を手にした。


「こいつは盆栽鉢なんだよ」

「盆栽…不死川様の、ご趣味なんですか?」

「いや…それが好きな奴を、知ってるってだけだァ」


 「知っているだけ」と口にしながら、盆栽鉢を見る目は先程の千寿郎を見下ろす瞳と同じだった。
 否、その時よりも柔らかく見えるのは気の所為か。


「じゃあ、その人の為に選んでいるんですね」

「っン、な訳ねェだろォ!」

「えっ? そ、そうなんですかっ?」


 何気なく問いかけたことを全力否定される。
 意図がわからずおたおたとたじろぐ千寿郎に、実弥は「悪かった」と小さく呟き顔を顰めた。

 買うつもりはない。
 それでも気付けば手に取っていた。
 心の隅にいつもある、その存在を思い出してしまったからだ。

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