第6章 柱たちとお泊まり会✔
畳の上でかけ布団を引き摺る微かな音を耳に、蛍は羽織の中でゆっくりと目を瞑った。
諦めた義勇が布団を使ってくれているのか。
視界を閉ざせばより一層感じる"他人"の温もり。
それは実質的なものではなく、この体を覆う羽織から伝わってくるものだ。
染み付いている人の匂いは義勇のものだというのに気にならない。
寧ろずっと忘れていた他人の温もりを思い起こすようで、なんだか居心地が良い。
(これなら、寝られるかも…)
ゆっくりと息を吐く。
全身の力を抜いて温かなそれに身を預ければ、不意にふわりと羽織越しにかかる重みを感じた。
義勇はかけ布団を使ってくれなかったのか。
自分は要らないと再度主張する為に羽織から顔を出せば、暗闇に灯した炎が目に映る。
「…きょうじゅろう?」
こちらを見ていたのは義勇ではない。
かけ布団を手にした杏寿郎だ。
「ならば俺の布団を使え、彩千代少女」
「え…い、いいよ。それはきょうじゅろうのおふとんだから」
「うむ。俺も使おう」
「え?」
よくよく見れば、杏寿郎の敷布団も壁際まで寄せられている。
何故かぴたりと蛍の布団にくっ付けて。
義勇に習うように己の敷布団の上に座り込んだ杏寿郎が蛍の傍に寄る。
分け合うようにかけ布団を己の膝に乗せる姿に、ぱちりと蛍は目を瞬いた。
「これならどうだ?」
「…でも、ひざしかかかってない…」
「それでいい。彩千代少女の体温が伝わって十分暖かい」
「すわってねるのたいへんなんじゃ…」
義勇はまだ背を壁に預けているが、杏寿郎はその場に座り込んでいるだけだ。
そんな姿勢で寝るなど、体の節々を痛めてしまう。
そう蛍が告げる前に、ぽふりと頭に大きな掌が落ちてきた。
「先程より顔色が悪いな」
「…ぇ…」
どきりとした。
飢餓により己の血肉を喰らい流した。
それを見破られてしまったのかと。