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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



 神輿には、当然の如く車輪はついていない。
 長い担ぎ棒が四本、交差するように杭で打ち込まれている。
 その上には注連縄のような立派な太い飾り紐と大きな鈴で装飾された神輿。
 頂点を飾る大鳥の鳳凰(ほうおう)も、神輿の名を掲げる駒札(こまふだ)も、曲線美で魅せる屋根紋(やねもん)も、中枢を担う太い堂柱(どうばしら)も、全てが輝く黄金色で出来ている。


「すごい、あんなに立派な御神輿がよっつも!」

「す、すごく密集してますが、もしかしてここから…」

「うむ。ここから一気に流れ出す。盛大な神輿渡御だ!」


 熱気に煽られるように、三人の顔にも興奮が入り混じる。

 群がるように半纏を着た男達が、担ぎ棒を肩に乗せる。
 傾くことなく垂直に持ち上げられた神輿は、頸を曲げて見上げる程に立派だ。

 始まりの合図は「よいやーさ」の掛け声だった。

 まるで踊り明かすかのように、男達が掛け声に合わせて足踏みをする。
 膝を上げ、肩を持ち上げ、声を張り上げ。
 前へ前へと進むのではなく、その場で神輿を躍らせるのだ。

 シャンシャンと踊り成る鈴の音は、男達の張りのある声と笛の音に気前よく応えているかのようだった。


「「「「ワッショイ! ワッショイ!! ワッショイ!!!」」」」

「わ…わっしょい…!」

「わっしょい…!」

「わっしょいッ!!!!!!」

「うわあっ」

「ひゃっ」


 荒ぶる野太い男達の声に負けないようにと、周りに合わせて蛍達も声を上げる。
 一層高々と吼える杏寿郎の掛け声に思わずつんのめるも、周りは所狭しと人々で溢れ返っているのだ。
 倒れる隙間もなく、人の壁に打ち返される。


「なんか、こっちは想像してた通りだけど、想像より凄い…!」

「あ、姉上…っ」

「大丈夫っ? 手、離さないで千くんっ」


 神輿渡御は、先程の七福神の行進のように人々が整列して眺めるようなものではなかった。
 担ぎ手の登場で膨れ上がった人口に、客も担ぎ手も入り混じり揉みくちゃにされる。
 それが醍醐味なのだろうが、流れに吞まれてしまった蛍と千寿郎は神輿に近付き過ぎた。

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