第24章 びゐどろの獣✔
「ついでにお祈りでもしておこうかな。そろそろ千くんが家事を全部私に任せてくれますように」
「えっそんなの無理ですよ…っ」
「料理だけ、とか洗濯だけ、とか。一部でいいから全部任せてくれていいのに。私、お手伝しかできてない」
「そんなことないですよ。すごく助かってます」
「でもなぁ…毎日こなすのは大変でしょ?」
「慣れましたから」
「"慣れ"は"平気"とは言わないの。よし。明日は一日、私に台所を譲ってくれますように」
「えっ」
ぱんぱんと手を叩き本格的に七福神の行進に頭を下げる蛍に、苦笑混じりだった千寿郎の顔が慌てた。
「ぁ…姉上は働き過ぎです…っいくら家族と言っても、兄上と欠かさず鍛錬もしているのに私の仕事まで担うのは…っ」
「人より体力はあるし、回復も早いから。こんなに扱き使い甲斐ある人材いないと思うけど」
「そんな」
「千くんが一刻も早く遠慮しなくなりますように」
「でも」
「教わった煉獄家の味、一人で挑戦してみたいし」
「それは…」
「大切な義弟だもん。たくさん甘えて欲しい」
「…っ」
「頼って欲しいの」
合掌一礼の姿のまま揺るがない蛍に、千寿郎の小さな両手も重ね合わさる。
俯く少年の口から、ぎこちない本音が零れ落ちた。
「私、は…姉上と、一緒にしたいんです…料理も、洗濯も、掃除も…姉上となら、楽しくて、あっという間に過ぎてしまうから…一人でするより、ずっと」
「……」
「だ、だから、そこは譲れませんっ姉上こそ、もっと私を頼ってくれますように!」
「……」
「…姉上?」
途中から全く聞こえなくなった祈りという名の主張。
恐る恐ると目を開けて隣を伺えば、途端に千寿郎の視界は暗くなった。
「あ、あね」
柔らかい温もりに包まれる。
受け身を取る暇もなく、蛍の抱擁を貰っていたからだ。
「あの、姉上?」
「っ〜…今なら蜜璃ちゃんの気持ちがわかる…」
「え」
「きゅん死にしそう」
はぁぁ、と熱い溜息をついて、蛍は尚の事小さな体を抱き締めた。
なんだこの可愛いが過ぎる生き物は。