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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



「美味しいご飯屋さん、見つけなきゃね」

「そうだな。おはぎがある食事処にしたらどうだ?」

「不死川様はおはぎがお好きなんですか?」

「ついでに言うとカブト虫も好きだよ」

「カブト虫……なんだか、意外です…」


 昆虫の王様には少年心もくすぐられたのか。驚きながらも興味津々に二人の話に傾ける千寿郎の耳に、不意に賑やかな笛の音が流れ込んできた。


「あれは…」

「うむ。どうやらおいでなさったようだな」

「えっ御神輿?」


 笛の音。太鼓の音頭。かぽりかぽりと闊歩する蹄の足音に、人混みの中で背伸びをする。
 蛍のその目に映ったものは、想像したものとは大分違ったものだった。

 平安時代の朝服(ちょうふく)を身に纏った男達が、旗を掲げてゆるりと行進する。
 その後ろには笛を吹き、太鼓を鳴らし、道を音楽で彩る人々。
 更には甲冑(かっちゅう)を着て馬に乗り進む者達までいる。

 行列の後ろには神輿のようなものも運ばれてきたが、土台には車輪がついており、担ぐのではなく周りに引かれて進んでいた。
 その神輿には、七福神を思わせるような仮面を付けた人々が乗っている。
 小槌を振り、羽衣を舞わし、扇を仰ぎ。まるですれ違う人々に幸福を与えんとするかのように。


「…なんか…思ってたのと違う…」


 悪い意味ではない。その場だけ浮世離れしたような、独特の雰囲気に蛍の目は釘付けだった。
 華やかではあるが、上品に、粛々と。群を成す人混みの中心を歩む様は、まるで神や仏の行進だ。


「なんだか…参道みたいですね…」

「うん。千くんの言いたいこと、わかる」

「姉上も?」

「神様の行進みたいだよねぇ」

「はい」


 逸れないようにと、繋いだ手の先。
 同じく一生懸命背伸びをしながら行進を見守る千寿郎の呟きに、蛍も頷いた。


「神幸祭とは、神社から御旅所(おたびしょ)に神様が赴くことを意味しているからな。二人の見解は間違っていないぞ」

「成程。神の幸せの祭りって書くもんね」

「神様が、幸せを運んでくれるお祭りなんでしょうか?」

「ふふ。そうだといいねぇ」


 詳しい理由や経緯などはわからない。
 それでも神聖にも感じる行進を身近で感じながら、他愛のない会話を繋げるのは楽しかった。

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