第24章 びゐどろの獣✔
「不死川」
「あ?」
「せめて目が届く場所には、いて。お昼は一緒にご飯食べよう」
手袋をした指先で、実弥の羽織の裾を握る。
肝心の話はできなくても、引き止めない理由にはならない。
折角この場に居合わせたのだ。
鬼を捜す為の別行動なら、その手を休める時くらいは合流しても不都合はないだろう。
「…と、千くんが申しておりました」
「…ァあ?」
「わ、私ですか?」
「むぅ! 俺も共に食べたいぞ!」
だがどうにも血走ったような見開いた目を前にしていると、何度も頸を狩られそうになったことを思い出してしまうのか。
つい退け腰に言い訳をしてしまった自分を自分で責める。
(千くんの所為にするな。馬鹿)
それでも羽織を摘まんだ指先は離さない蛍を、杏寿郎とは別の意味で強い眼光がしげしげと見る。
鬼の手でありながら、そんな力を微塵も感じさせない細やかな主張で、羽織を握る指先を。
「…忘れんなよォ。お前もその〝鬼〟のうちなんだってことを」
「そう、だけど…」
「俺が見張るのはお前も込みで、だ。お館様に任命された俺の役目を忘れたかァ」
「…あ(そうだった)」
強く実弥が腕を引けば、簡単に蛍の指が羽織から離れる。
「精々お前が俺の目の届く所にいろォ」
言い捨て様に、人混みへと紛れるように身を寄せる。
実弥の体は、瞬く間に波に飲まれて消えていった。
「ぁ…(行っちゃった…)…お昼ご飯の返事、貰ってない」
「なに、不死川も否定はしなかった。問題ない。後で合流できるだろう!」
「だといいけど…ごめんね、千くんを理由にしてしまって」
「いいえ。私も不死川様と一緒に食事したかったので。姉上が誘ってくれて助かりました」
心持ち肩を落として振り返る蛍に、相打つ兄弟は晴れやかな秋空のように明るい。
そんな二人を見ていれば、しょんもりと落ちていた肩も上がるというものだ。
「ありがとう、二人共」
折角の祭り事。
楽しまなければ損だと、蛍も竹笠を被り直して頷いた。