第24章 びゐどろの獣✔
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「はぁ…失敗した」
千寿郎と入れ替わるように台所へと逃げ込んだ蛍は、重い溜息をついた。
あからさま過ぎただろうか。
杏寿郎に嫌がられていると思われてしまわなかっただろうか。
実弥がその場にいた為に、羞恥が勝ったのは確かに逃げ出した理由の一つだ。
だがもっと別の明確な理由がある。
「……どうにかしなきゃ…これ」
見下ろしたのは自身の足首。
着物で隠れているが、そこには童磨に結び付けられた虹色のリボンがある。
花街で肌を重ねた時は、一糸纏わぬ姿にはならず赤い着物を羽織ったままだった。
故にリボンが杏寿郎の目に止まることもなかったが、入浴となればそうはいかない。
リボンを見つけられれば理由を問われるだろう。
そうなると童磨との間にあった出来事を吐露しなければならない可能性も出てくる。
(それは、嫌だ)
人間の頃と同じ、都合のいい性道具に成り下がってしまったことなど知られたくない。
女郎と言うだけで浅ましい欲で見てくる男達の目も嫌いだったし、遊女と言うだけで同情に満ち満ちて見てくる男達の目も嫌いだった。
杏寿郎にそんな目を向けられることも避けたかったが、何より知れば傷付くのは杏寿郎自身だ。
抱かれ慣れている自分ではない。
(やっぱり足を斬るしかないのかな…)
こんな時、顔色一つ変えず指を切断してきたカナヲがいれば。
そんな藁にも縋るような思いで悩む蛍は、はたと顔を上げた。
「…そうだ」
カナヲは此処にはいないが、更なる適任者がいるではないか。
どうせすぐまた蜥蜴(とかげ)のように生えてくるだろうと吐き捨てた、あの風柱が。