第6章 柱たちとお泊まり会✔
すっと音もなく開く襖の間から、部屋の中を覗く二つの影。
凹凸激しい大小の影は義勇と蛍。
「ふふ…いただき…ま…」
「すー…ふー…」
暗い部屋の中からは寝言と寝息だけが聞こえてくる。
どうやら全員夢の中らしく、その空気にほっと肩の力を抜く蛍を置いて義勇が先に踏み込んだ。
「帰ったかっ」
「ひゃムっ?」
途端。真後ろから小さくとも弾むような声に呼びかけられ、気配を察知できなかった蛍が悲鳴を上げる。
その声が就寝中の柱達の耳に届く前に、間一髪口を塞いだ義勇が即座に抱き込むように体を抱えた。
「…寝ていなかったのか」
「うむ。二人の帰りが遅いのでな。何かあってはならないと待っていたっ」
流石にいつもの耳の鼓膜にまで響くような声量はなく、しかしいつものような闊達(かったつ)な笑顔で迎えたのはこの屋敷の主。炎柱の煉獄杏寿郎だ。
「しかし彩千代少女の…」
「……」
「その恰好は…」
「……」
「…冨岡?」
「なんだ」
「彩千代少女が見えないのだが」
蛍を片腕で抱え、片手で口を塞ぐ。
そのまま背を向ける義勇に杏寿郎が覗き込もうとすれば、右へ左へと体を傾け背中の壁を作られる。
その所為で暗闇でも炎を灯すような瞳に、小さな鬼の姿をはっきりと捉えることはできなかった。
「冨岡の羽織に巻かれているようにも見えるが。何かあったのか?」
「…何もない。厠の帰り道に迷っていたから、面倒で丸めて担いで来ただけだ」
「んむ…」
それは少しばかり、いや大分無理がある言い訳ではないのだろうか。
そう言いたげな目で蛍が見上げるも、相変わらず義勇の黒い眼からは感情がよく汲み取れない。
ただ別の意図として視線を感じ取られたのか、口を塞いでいた手からは解放された。
当初は井戸に落ちたことにすると言っていたが、杏寿郎が起きていたのは予想外だったのだろう。
ここで言い訳をすれば更に他の柱を起こしてしまう恐れもある。