第24章 びゐどろの獣✔
実弥としては元炎柱であった男に興味が全くなかった訳ではないが、よく見ようとも思わなかった。
聞けば聞くだけ、息子達に冷たい親だ。
型は違えど自分の父親を思い起こさせるようで、気分はよくない。
「そうだ、折角だから不死川もどうだ? 神幸祭に」
「えっ」
「はァ?」
「それはいいですねっ」
唐突に矛先を変えたのは、状況の判断と理解、そして結論を出すのも早い杏寿郎だった。
蛍と実弥。
二人の顔が珍しく同じ感情を露わにする中、千寿郎だけは兄と同じ顔で笑っている。
「不死川様も、ぜひ! 一年の中で特に大きな行事なんです。見応えはきっとありますよ」
「何をのうのうとそんな遊び──…っ」
この鬼が蔓延るご時世に、鬼殺隊が祭事などと。
すぐさま否定しようとした実弥の言葉は、両手を合わせて目を輝かせる少年の前で止まってしまった。
そもそも千寿郎は鬼殺隊ではない、一般市民と同等の存在だ。
その立場は否定できない。
「チッ…俺ァ仕事があるんだ。お前と違って休暇中じゃねェんだよ」
「その仕事を早急に片付けて、此処へ駆け付けたのではないのか? 君が任務を半端に放るとは考え難いが」
「……」
沈黙は肯定しているようなものだ。
それでも図星な為に否定できなかった。
杏寿郎からの手紙を読んだ途端、玄弥が血鬼術にて負傷したのだと思った。
だから剣士などになるなと言ったのに。
そもそもその資格も十分にはない玄弥だ、遅かれ早かれ辿る道だったかもしれない。
わかっていながら何故もっとしっかり止めておかなかったと自分を責めた。
手足の骨を折ってでも、辞めさせるべきだったと。
今すぐに手紙を送った主の所へ駆け出したかったが、鬼殺任務を放っては本末転倒。
睡眠を削り、食事を削り、普段の半分の時間で任せられていた任務を全て果たして此処へ来たのだ。
「忙殺を極めただろう。そうさせたのは俺の責任。部屋は幾つでもあるから、我が家で休んでいってくれ」
「だからってなァ、俺は祭事なんざ」
「その祭事に鬼が出る可能性もある」
ぴたりと、否定ばかり続けていた実弥の口が止まる。