第24章 びゐどろの獣✔
神輿渡御は数日の祭りのうち、一日しか行われない。
昔は家族四人揃って観に行っていたというその熱い空気を、記憶にはない思い出としてしか振り返ることはできなかった。
実感のない、ただの記録のように。
その日をとうとう兄と共に、記憶に焼き付けることができるのだ。
新しく家族となった蛍も混じえて。
例えその場に父がいなくても、嬉しくないはずがない。
「…私は槇寿郎さんとも一緒に行きたかったけどな…」
しかし千寿郎とは反対に、蛍は畳の上に指先で【の】の字を書く程、しょんぼりと沈んでいた。
「ああもはっきり目を逸らされるのは、結構堪える…杏寿郎は凄いよ」
『なので、どうですか…? 槇寿郎さんも。ぜひ一緒に、神幸祭に』
『……』
『…槇寿郎さん?』
『……俺は風柱には会わん。話はそれだけならさっさと行け』
『──!』
決死の思いで伝えに行った。
杏寿郎が前に出てしまえばまた衝突してしまうかもしれないと考え、蛍一人で神幸祭へと誘ったのだ。
初めての土地での祭事だからこそ、この地を一番理解している槇寿郎に共に来て欲しいと。
しかし一言一言噛み締めるように伝えた思いは、ふいと目を逸らされ会話も逸らされた。
蛍を見ずに杏寿郎に実弥との面会だけを断った槇寿郎は、静かに部屋の奥へと引っ込んだのだ。
「俺と父上の付き合いは二十年以上だ。慣れも大きい。だからそう凹むな」
「そうだとしても、存在を無かったみたいに扱われるのって、ちょっと、凹む。怒鳴られたりするよりは、いいかもしれないけどさ…」
「うむ。それだけでも大きな進歩だ。普段の父上なら、余地を残さぬ程にはっきりと否定していたはず。その否定がなくなっただけでも十分な一歩だぞ」
「そうかなぁ…私が他人だから、気遣ってもらっただけな気も…」
「であれば他人である不死川にも気遣っているはずだ。元柱のよしみだ、言葉は交わさずとも顔を一度見せるくらいしてもいい。しかし父上はそれを拒否した。よってそこに気遣いなどはない!」
「聞こえはいいが、つまり俺は鬼にも劣る扱いだってことかァ」
「そういう意味で言った訳ではない! が、そう聞こえても仕方ないな! すまん!!」
「…別に気にしちゃいねェけどよ」