第24章 びゐどろの獣✔
「千くん大丈夫? 不死川に何かされなかった?」
「開口一番がそれかテメェ」
「だって心配で」
「わ、私は何も。不死川様は話し相手になってくださいました」
「そっか。ならいいの」
睨んでくる目も悪態も、慣れたもの。
最早それが実弥との挨拶のようなものだと、蛍は千寿郎に笑いかけると優しく頭をひと撫でした。
笑ってはいるが、しゅんと落ちた肩に張りのない声。
頸を傾げた千寿郎は、蛍のその様子にはっとした。
「姉上、もしかして父上が何か失礼なことを…っ?」
実弥を客室に通すと同時に、杏寿郎と共に屋敷の主の下へと向かった蛍。
意気込むようなその顔を見送ったからこそ、昔の自分のように歩み寄りを挑んで失敗したのでは、と。
「うん? ううん、失礼なことは何もされてないよ。…ただ」
「ただ?」
「話を、聞いてくれなかった…だけ…で…」
にこりと力なく笑った途端、がっくりと蛍の両肩が目に見えて落ちる。
ずぅん、と重い効果音までついてきそうだ。
「あの、話とは…?」
「後日行われる神幸祭のことだ。折角だから父上も誘って共に行きたいと思ったのだが」
「神幸祭…あの、神幸祭ですかっ?」
「うむ。今年は千寿郎と共に観に行けそうだ!」
「父のことは残念だが」と告げる杏寿郎に、それでも千寿郎は高揚した。
神幸祭は毎年行われる為に知ってはいるが、杏寿郎がその日に合わせて休暇を取れることは無に等しかった。
盆には必ず休暇を取り帰って来ていた為、その後は長期任務が入ることが常だったからだ。
今年は盆の帰省は叶わなかったが、それ以上のものを杏寿郎は持って帰ってきてくれたようだ。
「じゃあ、あのお神輿も…っ?」
「ああ。俺と蛍と千寿郎と三人で観に行こう!」
にっこりと笑う杏寿郎に、確信へと変わった千寿郎が花を咲かすように破顔する。