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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



「…わぁ」

「?」


 玄弥の影を追うように耽(ふけ)っていたからか。まじまじと見てくる千寿郎の顔が、羞恥とは別の意味で赤く染まっていたことにようやく気付いた。


「不死川様も"兄上"なんですね」

「…そんな大層な敬称で呼ばれるような存在じゃねェがなァ」

「ふふ。でもさっきの不死川様、偶に兄上が見せてくれるような凄く優しい顔をしていました」


 居心地悪そうに他所を向く実弥に、それでも千寿郎は自分のことのように嬉しそうに告げた。


「素敵だと思います」

「素敵か!! ならば俺も千寿郎の兄としての責務を立派に果たしてみせる!!!」

「ぁっ兄上ッ!?」

「…面倒臭ェのが来たなァ」


 その柔い空気を一変したのが、見計らったかのように襖を叩き付けるようにして開け放った杏寿郎だ。
 心底驚く千寿郎に対して、机に頬杖をついた実弥の顔は呆れていた。


「客人を放っておいてすまない。不死川は前炎柱と同時期に柱として就いていたからな。どうせなら一目と父に声をかけてみたのだが、会わないの一点張りで」

「構やしねェよ。俺はお前に会いに来たんだ」

「それも空振りさせてしまったようだが」

「そうでもないぜェ」

「ふむ?」


 向き合うように机を挟んで腰を下ろす。
 姿勢よく座す杏寿郎を前にしたまま、実弥は頬杖をついた手元から見上げるように視線を絡めた。


「"ついで"なんかでわざわざ俺にあんな手紙寄越さねェだろォが」


 前炎柱のことは詳しく知らないが、現炎柱のことはそれなりに知っている。
 他者への情に厚く、己には厳格な性格だ。
 猛火のような性格に乱されつい物申すことはあれど、実弥も杏寿郎のことは認めていた。

 産屋敷の屋敷と風柱の屋敷が特別近い訳でもない。
 わざわざ自分に鎹鴉を寄越した理由が、"ついで"な訳がないのだ。


「大方、俺に用事があったんじゃねェのかァ」

「…それは──」


 とんとん、と襖を軽く鳴らす掌。
 開いた襖の隙間にひょこりと顔を覗かせたのは、茶請けを手にした蛍だった。

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