第24章 びゐどろの獣✔
「あの…風柱の不死川様、ですよね。お話は、兄上から度々聞いております」
「そうかィ」
「特殊な稀血の持ち主でいて、風の呼吸の腕前も過去の剣士の中で随一だとか。そんな不死川様にお会いできるなんて、嬉しいです」
玄関口に突風のように現れたかと思えば、煉獄は何処だと鬼のような形相で訊いてくる。
実弥との初対面はそんなものだったから千寿郎も腰を抜かしかけたが、実際に面と向かって話せば圧などない男だった。
見かけは傷だらけで一見恐ろしくも見えるが、槇寿郎から日頃向けられる圧に比べれば穏やかなものだ。
素っ気なさはあるものの、無暗な殺気は向けてこない。
煉獄家に飛び込んで来たのも、原因は弟の玄弥を心配してと聞く。
そこには兄である杏寿郎と同じ空気を感じたものだ。
「申し遅れました。私は煉獄千寿郎と申します」
「あァ。煉獄からよく聞く」
「そう、ですか…」
俯き加減に、じんわりと頬を染める。
千寿郎のその反応に実弥が目で問えば、手持ち無沙汰に少年は頬を指先で掻いた。
「どうやら兄は、私のことを柱の方々によく話しているそうで……宇髄様とお会いした時も、同じことを言われました」
嬉しいような、恥ずかしいような。そんな照れ臭さの残る笑顔を向ける千寿郎に、もう一口茶を飲み込むと実弥は大したことはないと肩を竦めた。
「いいじゃねェか。それだけ自慢したい兄弟がいるってことだろ。悪いことなんてありゃしねェ」
「変な話は、聞かされていませんか? 兄はすぐ調子に乗るというか、勢いに乗る性格なので…」
「アレが可愛い、コレが可愛いの連鎖だなァ。褒め千切ってんぞ」
「ぇぇぇ…」
更に千寿郎の顔が赤く染まり、太い眉が低く下がる。
兄の杏寿郎と見た目はそっくりでも、似ても似つかぬ空気感に、実弥はふと口角を緩めた。
成程、確かに煉獄の"弟"だと。
「兄貴にとっちゃ弟は幾つになってもそんなもんだろォ」
歳を重ね、無邪気さを置いて、立ち振る舞いを気にするようになり、当然として触れ合っていた温もりは遠く離れた。
それでも、視線の位置が自分より高くなろうとも、昔のように兄ちゃんと呼ばなくなろうとも。
弟は弟なのだ。