第24章 びゐどろの獣✔
「!? だが俺には十分火急(かきゅう)のことで」
「鬼殺隊関係ねェだろ!」
「だが俺には大いに関係あ」
「俺にはねェわ!!!」
いつも張りのある杏寿郎の声をことごとく消し飛ばす、実弥の罵声。
(確かに、不死川に一理あり)
今回は実弥の言い分が正しいと、蛍は無言で小さく頷いた。
これでは玄弥と勘違いしても可笑しくはない。
「お茶です。どうぞ」
ことりと、目の前の机に湯呑が置かれる。
薄く湯気を上げる茶に、実弥は腕組みをしたまま視線を落とした。
杏寿郎とは一味違う、見開いたような眼孔。
それが湯呑から上がり目の前の少年へと向けば、びくりと小さな肩が揺れる。
「…怪我ァ、いいのか」
「え?」
「腕、怪我したんだろォ。鬼の爪で」
「ぁ…はい。でも、もう大丈夫です。元々浅い傷だったので、すぐに治りました」
受け答えは素っ気ないものだが、湯呑を手にしながら身を案じる実弥に、千寿郎はほっと胸を撫で下ろした。
「兄上と姉上のことは少々お待ち下さい。すぐに戻ると思うので」
「(姉?)…お前、あいつが鬼だって知ってんだろ」
「姉上の、ことですか…はい。一通りのことは、兄上に前以て手紙で伝えてもらっていました」
「へェ」
ずず、と茶を啜りながら問いかける実弥に、緊張しながらも交わす千寿郎の受け答えはしっかりしている。
成程、確かに煉獄の弟だと、実弥は話半分で聞いていた杏寿郎の弟談を思い出していた。
やれどう愛いだの大切だのそんな内容ばかりだったが、褒め称える中には千寿郎の日頃のたゆまぬ努力の話も入っていた。
炎柱を放棄した父親と同じ屋根の下、一人で家を守り続けるのは大したものだと素直に思う。
「そいつァ大した玉だ」
そして蛍のことも家族として認めている。
多くは語らずとも、千寿郎の目を見ればわかった。